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過去編③
連絡があった日から、美織は消えた。登下校のバスにも、街中にも、美織はいない。
彼女がかよっている学校にも行ってみたが、学校を休んでいるのか会えなかった。教師や生徒に話を聞いてみたいとも思ったが、警察に通報されそうになったので諦めた。
(美織……何で黙っていなくなっちまったんだよ。そんなに俺に隠したい事情だったのか?)
あんなに楽しかったゲームの最中も、ずっと美織のことを考えてばかりで上の空だった。
美織と再会したのは、意外な場所だった。
ゲームに熱中するあまり、バスを降り過ごした。気づいた時には外は真っ暗で、慌てて降りた。全く知らない場所だった。
「次のバスまで一時間か……」
空腹のまま待つのは耐えられないと、目についたラーメン屋に入った。
中年の店主が一人、カウンターに立っていた。
「チャーシューメンひとつ」
「あいよ」
注文を待っていると、「ただいま戻りましたー」と裏口から若い女性店員が入ってきた。美織だった。
「み、美織?」
「遊斗君?!」
美織は遊斗を見た途端、裏口から逃げ出した。
「待て!」
遊斗は表の出入り口から外へ出て、美織を先回りした。
「何でこんなところで働いてるんだよ?! お前の学校、バイト禁止のはずじゃ……!」
美織の腕をつかみ、問い詰める。
美織はうつむき、涙をぽろぽろと流しながら答えた。
「……辞めたの。友達からいじめられて、学校に居づらくなって」
「辞めた……?」
予想外の答えに、遊斗は唖然とする。
確かに美織は大人しい方だが、他人から嫌われるようなタイプではないはずだった。少なくとも、姿をくらます前はそのような仕打ちを受けたなど、全く聞いたことがなかった。
「友達に彼氏が出来たって話したら、"ズルい"って言われて……その子、ずっと遊斗君のこと狙ってたんだって。友達は私が遊斗君を奪ったって思ったみたいで、周りの子達にもそうやって言いふらして……そうしたら、他の子からも無視されるようになっちゃった。親にも"学校に行けないなら、辞めて働け"って言われたし、だったらいっそ退学した方が気が楽かなって思ったんだ」
「だからって、俺とまで別れなくたっていいじゃねぇか」
「……友達に言われたの。遊斗君と別れれば、いじめるのやめてくれるって。まぁ、結局……やめてはくれなかったけど」
美織は何もかもを諦めた瞳で、遊斗に微笑みかけた。
「こんなところで遊斗君と会えるなんて、思ってもみなかった。わざわざ遊斗君が来なさそうなバイト先を探して、決めたのに。でも……もう来ないで。遊斗君の顔見ると、幸せだった頃を思い出して、辛くなるから」
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