ep.6 馬鹿も食わないラブロマンス

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 こいつ、人の話を最後まで聞かずに。 「……ッ、ぅ、ん……ッ」  意趣返しのつもりかどうかはしらないが、これくらいのことで動揺するようなやつとは思われたくなかった。  ……だとしてもだ。  肉厚な舌が唇を入って歯列をなぞる。こちらから視線をそらさず真っ直ぐに覗き込んでくるやつの目がひたすら不愉快だった。まるでこれくらいできるだろ、と挑発するかのような視線が。  俺が抵抗せずに唇を開くのを確認すると、ふ、と五十嵐が笑ったような気配がした。 「……あいつは部屋にいるのか確認は?」 「し、てる……」 「……へえ、そこはちゃんとしてんだな」  もし神楽が部屋にいないってんなら、こんなことされれば速攻ぶん殴っていたに違いない。 「舌、出せよ」と五十嵐に低く囁かれる。くそ、唇の傍で話すな。 「なんで、そんなこと」 「……自分から誘ったんだからその気にさせるくらいしたらどうだ?」  演技、って言ってるだろ。と喉元まで出かかって、ぐっと堪えた。……たかだかキスだ。安いものだ。それに、今更大切にするようなものでもない。そう割り切り、ゆっくりと口を開いて五十嵐の舌を咥内へと招き入れる。  代わりに伸ばした舌を絡めれば、舌ごと唇を貪られるのだ。 「ッ、ぅ、……ッ、ん……ッ」  伸びてきた手に首を掴まれる。  ああ、クソ。腹立たしいほどにキスが上手い。舌の根から舌の先っぽまで愛撫されれば、あっという間に脳の奥が熱くなる。  喉仏に触れる指はそのまま鎖骨へと落ち、そのままネクタイを解かれそうになりぎょっとする。そのまま長い指でしゅるりと解かれ、涼しくなる首元に息を飲んだ。 「っ、そこまでは……しなくてもいいだろ」  人のシャツを脱がしに掛かる五十嵐の手を咄嗟に止めれば、やつは無言でこちらを見た。 「俺がキスで満足するやつだと思われるだろ」 「ッ、ぃ、いいだろ、別に……ッ!」 「……チッ」  舌打ちってお前、と五十嵐を見上げたとき。再び唇を塞がれる。  ――演技だ。これは全部。  そう必死に堪えるが、くそ、キスばっかしてんじゃねえよ。頭の中が赤くモヤがかっていくようだった。じんじんする。意地でも気持ちいいと認めたくないが、舌を絡み取られ、舌を噛まれれば息が漏れる。  どさくさに紛れてシャツを脱がされそうになり、咄嗟に後退るが腰に回された腕によりすぐに抱き寄せられた。  腹の辺りにごりっと嫌な感触を感じ、思わず息を飲んだ。 「五十嵐、お前……ッこの……ッ」 「喘ぎ以外ででけえ声出すな、あいつに勘付かれるぞ」 「ッ、お前な……」 「安心しろ、挿れねえよ」 「……お前が挿れて下さいって言わねえ限りな」と耳を舐められ、凍りつく。  この男は、と咄嗟に目の前の五十嵐を引き剥がそうとするが、顎を掴まれ、更に喉奥まで挿入される舌に咥内中の粘膜を舐られる。  ああ、くそ、分かっていたはずだ。この男の本質など。こいつがただで協力してくれるやつではないと。 「っ、ふ、……ッ、ぅ……ッ」  舌が口の中、舌が絡み合う感触が余計生々しく感じた。これじゃ喘ぎ声もクソもないだろ、と五十嵐の腹を殴ろうとすれば、そのまま手首を取られるのだ。 「ッ、ん……ぅ゛……ッ!」  五十嵐の手がシャツの裾を捲くり上げ、露出した腹部に触れる。ただ腹筋の表面を撫でられただけなのに、そのびくんと震える下腹部を見て自分で血の気が引いた。 「期待しすぎだろ」  唇の端から垂れそうになっていた唾液を舌で舐め取られる。五十嵐の指摘に顔が、耳が酷く熱くなるのを感じた。 「っ、お、まえこそ……」  一方的にされるのがただ癪だった。腰に押し付けられる五十嵐の下腹部に手を伸ばせば、一瞬、ほんの僅かに五十嵐の表情が歪む。それが笑みだったと気付いたときには遅かった。 「……ああ、そうだな」  五十嵐の手が、指が触れる。手の甲の上から覆い被せるように重ねられる大きな手のひらに息を飲む。それ以上に、手に感じるやつの熱に。  おい、と言い返す暇もなかった。 「お前のせいでこのザマだ」  スラックス越しでも分かるその質量、熱に思わず息を飲む。以前の五十嵐との行為――とついでに能義との最悪な記憶までも蘇り、余計言葉に詰まった。  他にもう少し言いようがないのか。 「……変態臭いぞ、あんた」 「お前の元飼い主よかましだろ」 「…………」  それはそうだ。と思わず納得しかけたとき、五十嵐は人の手を使って自分のファスナーを降ろさせてくる。「おい」と思わず手を離そうとするが、重ねられた五十嵐のゴツゴツとした手は離れない。それどころか。 「……さっさと済ませるぞ」 「……ッ、わ、かってる……」 「手でも口でもいい。……これくらい臨場感あった方が良いだろ?」  お前が我慢できねえだけだろ、と思わずにはいられなかったが、確かにこれはと思わず横目で見てしまう。  見てて痛ましいほど張り詰めた下着の中、寧ろよくお前そんな涼しい顔してられるなと思わず関心してしまいそうになる。下着の下で大きくなった性器はくっきりと形に浮かび上がり、余計それが酷く生々しくて。 「……五十嵐お前、趣味悪いな」 「勃ったもんは仕方ねえだろ」  こいつ、開き直りやがった。  協力してくれたお礼などと言うつもりはない。五十嵐の言うとおり、臨場感はあった方がいい。それに、俺が喘ぐ必要ないのではないかと一抹の思考が働く。このまま五十嵐を喘がせることができればそれはそれで面白そうだと思った。  ――散々人の体で好き勝手しやがったお礼だ。  そう、五十嵐の膝の前に座りこめば、五十嵐の目が俺を追ってくる。  きっと、こいつも俺もさっきのキスで変なスイッチが入っていたのかもしれない。  傅いたまま、半ばやけくそに五十嵐の下着に触れた。  何故、こんなことになってるのか。自業自得の四文字が頭の中に思い浮かんでは消えていく。  自分でも相当なことをしてるのではないかと思ったが、冷静になったところで遅い。  手段は選ばない……そう決めたのだ。と、自分に言い聞かせながら俺は五十嵐のモノを取り出す。なるべく鼻で呼吸をしないようにすればするほど犬のように呼吸が上がってしまうのが恥ずかしかった。手のひらの中、パンパンに勃起したそれを指で作った輪っかで握ろうとするが指が回んねえのが余計腹立った。  五十嵐を喘がせたい、なんて思ったのは数分前。  すぐにその考え自体が間違っていたことに気付かされる。 「……」 「ッ、……ぅ……」 「…………」 「っ、おい、いがらし……」 「…………なんだよ」 「お前……っ、やる気あんのか……?」  思わず声が上擦ってしまう。  神楽に俺達の関係を邪推させなければならないというのにこの男、眉をぴくりとも動かさずに俺をただ見てるのだ。そのくせ手の中のブツは勃起だけはしっかりしやがって、と上目に睨めば、五十嵐は人を見下ろしたまま「お前次第だな」と御大層なことを言いやがるのだ。 「ぁ、あのな……」 「一番手っ取り早い方法ならあるが」 「……ぜってー嫌だ」  どうせ実際にやった方が早いとか言い出すつもりなのだろう、じとりと睨み返せば五十嵐はふん、と鼻で笑う。 「どうでもいいが、この調子じゃ日が暮れるぞ。緊張してるのか知らんが、下手すぎてイケねえ」 「へ……っ、お、お前、勃起してるくせに……」 「ちんたらしてんじゃねえよ、やる気ねえのはお前の方なんじゃないか?」 「……ッ、……」  ぐ、と言葉に詰まる。  まだ俺に迷いがあると言うのか、こいつは。  いつもの煽りだ。そんなわけがない、と即答すればいい。そう思うのに、言葉に詰まってしまう。  そして、深く息を吐いた五十嵐に腰を掴まれる。  五十嵐、と咄嗟にその腕を掴んだときだった。下腹部、ベルトに五十嵐の指が触れた。 「……ッ、五十嵐……」 「オナったこともねえのか、お前」 「……あるに決まってんだろ」 「じゃあ、よっぽど下手くそなんだな」 「ほっとけよ……っ、て、おい……ッ!」 「暴れんなよ、俺が手本見せてやる」  この男、と咄嗟に腕を外そうとしたとき、下着の上から股間を掴まれ全身が強張った。痛みではない。やんわりと包み込むような圧に息が詰まり、毛穴が開くような感覚を覚える。 「力を抜け。……尾張」  耳元で囁かれ、目の奥がじんと熱くなる。  ……フリをするだけだ、ただ、他人の手で自慰をするようなものだと思えばいい。別に、セックスをするわけではないのだ。  口で息を吐き、そして俺は五十嵐から手を離した。  これはセックスではない、あくまでもフリなのだ。頭では理解してても、思い込みだけでは割り切れないものがある。 「力入り過ぎだ、抜けよ」 「う、るせ……ッ」  大きな五十嵐の手のひらに性器を握り込まれ、扱かれる。  なんだ、何故こんなことになってるんだ。俺の予定ではただ同じ時間を過ごし、それっぽい感じで別れるところを神楽に見せられればベストだったのに。 「っ、く、ふ……ッ」  絶妙な力加減で竿を扱かれる。硬い指先で亀頭を柔らかく揉まれれば、それだけでびくりと腰が震えた。先走りが溢れ、水音が増す。 「っは、……ッ」 「……おい、なにボケっとしてんだよ」 「な、ん……だよ………っ」  ボケっとしてねえよ、と睨もうとしたときだ。もう片方の五十嵐の手に手首を掴まれ、ぐっと寄せられる。そのまま俺の手のひらごと自分の性器を握り込む五十嵐にぎよっとしたとき、「お前もやれ」と耳元で囁かれ息が止まりそうになった。 「っ、や、やるって……」 「こうやって、俺のも扱けって言ってんだよ」  ぐぢゅ、と音を立て、手のひらの中の五十嵐のものが反応するのを感じ固唾を飲む。いや、こんなことまでする必要はないんじゃないか。  冷静になれ。冷静に……。 「っ、ふ、ぅ……ッ」  手の中のブツと五十嵐の顔を交互に見つめていた時、「早くしろ」と急かすように顎の下を舐められ腰を引きそうになった。やめろ、舐めるな。犬か。そう言いたいのに、ぐぢゅぐちゅと音を立て性器を上下に扱かれ続ければ頭の中もぐちゃぐちゃにかき混ぜられるみたいになにも考えられなくなるのだ。ああ、くそ、くそ。もう知らねえ。どうにでもなれ、と半ばやけくそに五十嵐のものを握り直す。  なんでまたデカくなってんだよ、むっつり野郎。 「っ、お前、まじで……変態臭えんだよ……ッ」 「……ああ?お前一人だけ気持ちよくなってんのは不公平だろ」 「……っ、な、ってねえ……っ、ん、ぅ……ッ、なって、ないっての……ッ!」 「ダラダラ先走り垂らしながら言っても説得力ねえよ。……おい、手え止めんな」  相当恥ずかしいことしてる自覚はあったのに、駄目だ。五十嵐のペースに飲まれたら駄目だ、主導権を手放すな。そう思うのに、五十嵐に耳元で囁かれれば従ってしまう自分がいた。  俺は五十嵐の背後の壁を見たりして誤魔化そうとするが、手の中のそれがドクドクと脈打つ度に無意識に目を向けてしまい、後悔する。  グロすぎんだろ。これが自分のケツに突っ込まれたと思うとただ生きた心地がしない。よく生きてたな、俺。 「っ、ん、ぅ……ッ」 「……」 「……っ、ぃ、がらし……」 「……あ?」 「だ、まるな……ッ、なんか、喋れよ……」  お互いに無言で抜き合う図最悪すぎるんだよ、とやつを睨んだとき、露骨に五十嵐が息を吐く。  なんだよその溜息は、と思ったのと唇を塞がれたのは同時だった。 「っ、ん、ぅ……ッ?!」  喋れよって言ったのになんでキスしてんだよ、と思わずやつの性器から手を離してその目の前の胸板を押し返そうとすれば、そのまま背中を抱き込まれて更に深く口付けをされる。 「っ、ん゛、ぅう゛……ッ!ふ、ぐ……ッ!!」  やめろ馬鹿、と必死に顔を離そうとすればさらに性器を扱く手はペースを上げる。  先程以上に下品な水音を立て、先走りの助けもあってか滑る手のひらに愛撫され、同時に舌を絡め取られれば全身が凍り付いた。 「っ、ふ、ぅ……ッん……ッ!ううう……ッ!」  イキそうになって咄嗟に五十嵐の手を掴むが、緩めるどころか更に追い立てられる。腰が震える。やめろ、と壁を蹴るが、やつはやめない。  舌を絡め取られ、喉奥まで咥内いっぱいに犯される。やばい、これは、このままじゃ。 「っ、う、ん゛……ッ!」  びくんと腰が跳ね上がり、瞬間、限界まで張り詰めていた性器から精液が溢れる。それをタイミング見計らって亀頭ごと覆うように手のひらで受け止めた五十嵐は俺から力が抜けるのを確認して唇を離した。 「……思ったより出たな。溜まってたのか?」 「っ、う、お……お前……ッ」 「じゃあ次は俺の番だな」  その矢先だった。  人の文句も最後まで聞かず、力が抜けていた人の腰を掴んでケツを揉んでくる五十嵐にぎょっとする。嫌味なくらいご立派なそれをケツの割れ目に宛がわれ、思わず「待てっ」と声をあげた。 「っお、お前……い、れねえって……言っただろ……っ」 「挿れねえよ」 「じゃあ……――」  押し付けんな、と背後の五十嵐を振払おうとした矢先だった。やつはあろうことかそのままケツの谷間に勃起したブツを押し付け、腰を動かすのだ。  ずりゅ、と先走りとともに熱い肉の感触がケツから腰へと皮膚の上を這う感覚に戦慄する。 「っ、ぅ、な……に……ッ」 「ケツ、力入れて締めつけろよ」 「っは、ぁ……?!んっ、おいっ、う、ごくな……っ!いがらしっ、おい……ッ」 「うるせえな……臨場感出してやってんだろうが、それらしくしろ」 「っ、り……ッ」  臨場感ってなんだよ。いらねえよそんなもの、と言いかけた矢先。  再び腰を動かし始める五十嵐に息を飲む。ケツの谷間を這う性器が、カリがケツの穴を掠める度にひく、と喉が震える。もうこれセックスじゃねえか、と言う俺のツッコミは掻き消される。 「っ、い、がらし……ッ」 「大根役者が……お前の声もっとでけえだろ」 「んな、こと……ね……ッ、ぇ、う、いやだ、それ……っ、まじで……ッ」 「お前、やる気あんのか?」  なんでお前が切れてんだよ、切れながら勃起してんじゃねえよ。とおもった矢先、ケツの穴に指をねじ込まれる。お前、と言う暇もなかった。 「っ、い、がらしテメエ……っ!!」 「約束は守ってんだろ。……おい、こっち使うぞ。腰付き出せ」  こっち、といい、人の腿を鷲掴んだ五十嵐は人の許可もなく太腿の隙間に性器をねじ込んでくる。逃げる暇もなかった。壁に手を付かされ、ケツの穴を穿られながら素股で扱かれる。 「っ、う、く……ッ、ひ……ッ」 「……ようやくそれらしくなってきたな」 「うるせえ、この……ッぉ゛……ッ、待っ、ぁ、五十嵐……ッ」  なんでこいつの指こんなに気持ちいいんだよ。小慣れてんのが余計腹立つし、そんなやつにケツの中ぐちゃぐちゃに掻き回されて萎えてねえ自分にも腹立った。  文句を言おうとする度に前立腺ごりごりに指で捏ねられ、出したくもねえ声が漏れる。四肢に力を入れると余計股下のチンポの感触が生々しくなるし、踏んだり蹴ったり、八方塞がりとはこのことだ。やかましいわ。 「っ、ふ、う゛……ッ」 「締め付けすぎだ馬鹿が……ッ、」 「お、まえに、言われたくね……ッ、う……ッ、や、やめろ、そこばっか……ッ」  ケツの奥がじんじんしてきて、下腹部に痛いくらい血液が集まっていく。どんどんなにも考えられなくなっていく。熱い、ケツの中も腿の間も。  玉の下を五十嵐の太い性器を擦り上げられる度に挿入されたときの感覚が蘇り、きゅっと力が入ってしまう。背後の五十嵐が小さく息を吐いた。  そして、更に指の本数を増やされ息を飲んだ。 「っ、ぁ、五十嵐……ッ、ま、ん゛……っふ、う……ッ、んんぅ……ッ!」  長い指が根本まで入り、体の中を出入りする。体内でくの字に曲がる指先に前立腺を揉まれるだけで腰が震え、五十嵐のものを挟んだまま震える下腹部にやつが笑う気配がした。  抑えたいのに、更に激しくなる愛撫に堪らず短い悲鳴が漏れる。咄嗟に口を塞げば、調子に乗った五十嵐は更にペースを上げるのだ。 「う゛、ふーッ、ぅ゛……ん゛ぅ゛……ッ!」 「……っ、声、我慢してんじゃねえよ」 「っ、う……ぁ……ッ!」  手首を掴み上げられ、更にケツの穴を犯される。我慢しようとしても声が抑えきれず、情けない声が漏れてしまいそうになる。  そうだ、声を聞かせなきゃいけないのだ。そう思い出すが、恥ずかしさの方が上回る。それでも声を抑えきれず、前立腺をコリコリと愛撫される度に喉の奥が震え声が漏れた。とろとろと溢れる先走りはそのまま滴り落ちる。  視界が白く蝕まれていく。何故こんなことになってるのかもわからなくなって、ただ一方的に五十嵐にイカされた。  ビクビクと痙攣する下腹部、性器からはなにも出てこなかった。代わりにとろとろと先走りが垂れるばかりで、壁にしがみついたまま肩で呼吸する俺にイキ損ねた五十嵐は太腿から性器を抜いた。  そして。 「……やっぱ、物足りねえな」  そう、ケツの穴から引き抜かれた指はほぐされたそこを左右に押し広げる。そこに先走りを塗り込むように亀頭を擦りつけられた瞬間、ぞくりと腰が震えた。  堪らず振り返れば、五十嵐と目が合う。その目に堪らず息を飲んだ。 「……っ、い、がらし……ッ」 「お前もそう思ってんだろ?……こんなんで満足できんのか?」 「っ……」  ぐにぐにと先っぽを柔らかく押し付けられる。少しでも力を入れれば挿入されてしまいそうなほどの危険な位置だった。  これ以上は、駄目だ。分かっているのに、いつの日かの行為を思い出して疼きが収まるどころか更に大きくなるのを感じた。 「っ、だめだ、これ以上は……も……ッ、手で、手でやるから……っ、五十嵐……なあ……っ」 「ケツの穴開きながら言うやつのセリフかよ。……お前だってヤりたくなって堪んねえんだろ」  なあ、尾張。と熱っぽい声で囁かれ、背筋が震えた。そんなわけねえだろ、違う、俺は。そう思うのに、入りそうで入らない浅いところをちゅぷちゅぷと亀頭でキスされるとなにも考えられなくなる。 「おい尾張、言えよ。……はいって。そうすりゃこれで犯してやるよ」 「っ、ちがう、俺は……っ、そんな……ッ」 「尾張」 「お、れは……ッ」  ――言えよ、ハジメ。  頭の中であいつの声を木霊する。腰が震え、捲られるようにケツの穴を穿られ、こんな最悪のタイミングであいつのことを思い出す。  なんで思い出したのか分からない。自分でも理解できない。それでも。 「っ、ぃ……いがらし……ッ……」  一人ではなにも決めることができない。  あいつはここにはいない。今になって思い知らされたようだった。己の性行為すら、この場にはいないあいつに管理されているようでただ怖くなった。  俺はあいつのものではないのに、あいつの言葉を求めてる。命令を待ってる。  そんな自分に気付いて、恐ろしくなった。だから、咄嗟に俺は口にした。 「……っ、挿れて……くれ」  こんなことをしてあいつの意趣返しになるのかもわからない。それでも、呪縛から逃げるように俺は五十嵐の腕を掴んでいた。  あいつの顔を見ることなどできなかった。火を吹きそうなほどの熱。  そしてあいつは反応するよりも先に、そのまま俺の腰を掴むのだ。そして次の瞬間、ずっと奥深くまで挿入される性器に頭が真っ白になった。 「っふ、ぅ゛……ッ!ぐ……ッ!」 「っおい、力抜け……ッ」 「は……ッ、ぁ゛……ッ、う゛、ぐ……ッ!」  無茶なことを言うな。そう言ってやりたいのに声の発声の仕方すら一瞬分からなくなる。  熱い、ケツの穴を指とは比べ物にならんくらいのブツでこじ開けられれば眼球の奥の方、脳味噌までもがどろどろと溶けていくようだった。 「……チッ」 「っ、待、うご、くな゛ッ、う゛ッ、ひ……ッ!!」 「……っ、まだ慣れねえのかよ、政岡とヤってねえのか」 「っ、う゛るせ……ッ、う゛……ッ、ぐ、んんぅ……ッ!」  人の腹の中で突っ込みながら喋るな。鼓膜とケツの穴どっちからも五十嵐の低音が響いて嫌で嫌で咄嗟に腰を引こうとすればやつの手に腰を抱かれるのだ。そのまま更に腰を動かされれば、閉じようとしていた壁を亀頭に摩擦するように押し広げられ喉の奥から出したくもねえ声が漏れてしまう。 「っ、やっぱ、い、も……ッ、も゛、いい……ッ!」 「ああ……ッ?」 「っ、も、ぉ、これ……以上……ッ、ぅ、ごくな……ッ!」 「お前が挿れてくださいって言ったんだろ」  言った、確かに言った。一時期の気の迷いだ。性欲に負けたのだ。それでもすぐにそれは誤りだとこうしてわかったんだ。 「腹、くるし……ッ、熱ィし……っいやだ、も……抜け……ッ」 「……っ、…………」 「な、んでまだデカくなってんだよ……ッ!」  一先ず俺の言葉を聞いて動きを止めた五十嵐だが、それでも嫌な程生々しい熱は中途半端に咥えさせられており酷くもどかしく、やめろと後ろ手にやつを追い払おうとすればそのまま手首を掴まれる。 「っ、五十嵐……」 「……苦しいのは最初だけだ」 「っ、待……――ッ」  待て、と言い終わるよりも先に強く手首を掴まれ腕ごと上体を引かれる。瞬間、先程よりも更に深々と根本奥まで貫く性器に声を上げることもできなかった。 「ぎッ、ひィ……ッ!」 「っ、狭えな……まじであれ以来ヤってねえのか、は……ッ、その癖に俺相手にこんなことすんのかよお前……ッ!」 「う、ごくなッ、や……ッ、ぅ゛……ッ、い、がら……ッ、ひ……ッ!」  力任せにこじ開けられる。苦しいはずなのに、熱とともに込み上げてくる別の感覚に思考を上塗りされていく。開いた毛穴からは汗が吹き出してくるようだった。  口をこじ開け、そこにさらに先走りを塗り込むように抽挿される都度更に挿入はスムーズになる。  それでも尚逃げようとするものの、リズミカルに腰を打ち付けられれば言葉は途切れ断続的なうめき声が漏れた。 「いっ、がらし……ッ、ん、ぅ゛……ッ、ふ……ッ」 「……っ、彩乃って呼べ」 「っ、いや、だ、なんで、お前……ッ」 「っ、……少しはそれらしくなんだろ」  普段嫌がるくせに。どさくさに紛れてキスすんじゃねえと顔を逸らそうとすれば、さらに顎を捉えられ「呼べ」と腰を打ち付けられる。 「っ、う、ぁ゛ッ、い、がらし……ッ!待て、……ッ、も、ま゛……ぐ、ひ……ッ!」 「っ、彩乃っつってんだろうが、聞こえねえのか」  耳朶を引っ張られ、鼓膜に直接吹き込まれる。焼けるように熱い。ケツを掴むな、揉むな、動くな。言いたいことも文句も色々あったのに、腕を引っ張られ「ほら言えよ」と更にぐりぐりとケツの穴の奥の奥までみっちり収まった性器で押し上げられれば頭の中が真っ白になる。 「っ、ぁ、やの」 「……、……」 「っ、ぁ゛……っ、やの、あや……の、ぉ゛……っ!」  ほら名前呼んだぞ、ならもう十分だろ。これでいいんだろ。そう言いたいのに、俺が言葉を続けるのも許さないと言った調子で更にピストンで犯される。言ってることが違う、いやそもそもこいつはなにを言ってるのか。分からない。わからないが、ガチガチに勃起した性器でガンガン突き上げられる度に脳細胞がどんどん殺されていくのだけは確かに分かった。 「……ッ、はーッ、ふ、ぅ゛……ッ、あや、の……ッ、あやのぉ……ん、むう……ッ!」 「……」 「っふ、……ぅ゛ん゛ッ?!ふ、う……っ、ふ、んん……ッ!」  当たり前のようにキスをされる。ようやくピストン緩めてくれて息できるようになったと思えば、今度は壁と五十嵐に挟まれ隙間ねえくらい根本までずっぽり収められた状態で密着し、キスされて、まじ、まじなんだ。なにしてんのこれ。 「っ、ふ……ッ、う……ッ、ん……ッ」  舌を絡められれば脊髄反射で舌を絡め返してしまい、余計ケツの中のブツがでかくなる。抽挿時よりもより鮮明になる性器の感覚や血管の凹凸がより生々しくて、それよりも執拗に唇をむさぼられるだけで脳がどんどん麻痺していく。  前髪をかき上げられ、目の奥を覗き込まれれば五十嵐は「ひでえ顔」と笑うのだ。お前のせいだ、ぜってーお前が十割悪い。 「っ、いや、だ……抜け……っ、も、ぉ……ッ」 「動くなっつったのはお前だろ」 「お゛ッ、く……で、止まんな……ッこんな、こと……ぉ゛……ッ、待て、いきなり、動くな……ッ」 「どっちだよ、お前は」 「っ、わかんねえ、も、嫌だ、お前のせいで、っ、ん゛、お、れ……ッわけわかんねえ……ッ」 「それは気持ちいいってことだろ」  勝手に決めつけんな、と言うよりも先に再びゆるゆると腰を動かし始める五十嵐に堪らずその腕にしがみついた。  痛えのも苦しいのも薄れて、性器で奥の突き当りを押し上げられれば口の中に唾液が溢れる。  嫌だ、なにが嫌なのか最早自分でも分からなくなるのが嫌だった。気持ちいいと思いたくなかった。認めたくなかった。  そう思ってる時点で矛盾してるのだ。わかっていたからこそ、心身が乖離していく。 「いっ、ひ、う゛……ッ!あ゛ッ、ぐ……ッ!」 「っ、さっきみてえに素直になれよ、お前、そっちのが大分かわいいぞ」 「……ッ、うる、へ、……ッ、も……ッ、だま、ん゛ッ、お゛……ッ!」 「舌、噛むなよ」  待ってくれ、なんて言葉は最早声にならなかった。  指が食い込むほどの力でケツを掴まれ、固定される。そのまま奥を反り立つ勃起性器でガンガン穿られ、貫かれ、正常で居られる人間がいるというのなら是非お会いしたいくらいだった。  なにも考えられなかった。隣に神楽の部屋があろが、壁が薄かろうが、そんなことを気にして声を殺すほどの技巧などない俺はただ五十嵐を受け止めることが精一杯で。  壁にしがみつき、そもそも何故俺たちはこんなことをしているのかということを考えたがそれもすぐにわけがわからなくなる。前立腺をカリでゴリゴリ潰されながらも執拗に犯され続けて気づけば目の前の壁には何回か分の自分の精液が飛び散り、床へとボタボタと落ちていた。 「……こんだけやりゃ少しは『それらしく』見えんだろ」  そして、人のケツに三回射精してようやくちんこを抜いた五十嵐に俺はなにも言葉を返すこともできずそのままズルズルと床の上にへたりこんだ。瞬間、ごぷりと更にケツの穴から泡立った精液の塊が吹き出したがそれを拭う気力は俺には残っていなかった。  それらしく、じゃなくて『それ』なんだよ。俺たちがやったことは。  そんな俺の突っ込みは虚空へと消えた。
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