ep.6 馬鹿も食わないラブロマンス

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 ――風紀室前通路。  風紀室の前には数人の風紀委員が集まって、なんだか怯えた様子で風紀室の扉の前で右往左往している。  何かあったのだろうか、と近くにいた風紀委員に声を掛けようとした矢先だった。閉じられた風紀室の方から何やら揉めるような声と物音が聞こえてくる。  どうせ野辺がなにかまたトラブルを起こしてるのだろう。思いながら、俺は扉の前であたふたしていた風紀委員の子たちに「ちょっとお邪魔するな」と一応声を掛け、そしてそのまま風紀室の扉を開いた。  そして凄惨な風紀室内。広がる光景を目の当たりにし、硬直した。  風紀室内、野辺と政岡が取っ組み合いをしているではないか。  ――いやなんでだよ。 「おい、落ち着け! 何やってんだお前ら!」 「ああ?! ……って、尾張……ッ!」  なんで政岡がいるのかとかはこの際さておきだ。とにかくこのゴリラ二匹の喧嘩を止めなければ、また器物損壊その他諸々と罪が重なっていく。  取り敢えず馬乗りになってた政岡を羽交い締めにすれば、「隙きアリ!」と野辺が脇腹パンチを食らわせていた。 「っぐ、テメェ……ッ!」 「だから落ち着けって、なにやってんだよ!」 「尾張、だってこいつが……」 「無能に無能と言ってなにが悪い? なんのために貴様を泳がせてやってるんだと思ってるんだこの」 「うるせえじゃあテメェがやるか?! ああ?!」  あまりの剣幕と荒れようにどんな事件が起きたのかと思えばいつものやつのようだ。勘弁してくれ。 「……あーわかった。……取り敢えずお前の後輩たちがビビってるからどうにかしてくれ」  あまりのくだらなさに必死に止める気にもなれなかった。  扉の外、取り敢えず喧嘩は収まったのかと遠巻きに見ていた風紀委員たちを指差せば、野辺は掴まれてよれていたネクタイを締め直し「フン」と鼻を鳴らすのだ。この男、謝るつもりは毛頭ないようだ。元より期待はしていないが。  このままでは話すに話せない。  そう判断した俺は一先ず二人を引き離す。それから座るためのソファーとテーブルだけは元の位置に戻し、その場を仕切り直すことにした。  ◆ ◆ ◆ 「政岡、少しは落ち着いたか?」 「尾張……」 「野辺も、煽るなよ。お前らの声デカイから色々だだ漏れたらどうすんだよ」 「フン、優等生気取りか?」 「あ゛ぁ?!」 「なんでお前がキレるんだよ政岡」 「俺のことはいいから」と隣に座る政岡の背中をぽんぽんと叩き、声をかける。「尾張」とまたなにか言いたそうにこちらをじっと見てくる政岡の目を受け流し、俺は向かい側の委員長テーブルに腰をかけた野辺を見た。行儀が悪すぎる。 「取り敢えず、野辺。お前の耳に入れたいことがある。聞いてもらっていいか」 「尾張、俺は……」  一緒に聞いててもいいか、と目で訪ねてくる政岡に「ああ」と頷き返した。 「まあ、お前にも関係あるかもしれないからな」  嘘は吐いていないはずだ。政岡の喉仏がごきゅりと上下する。  この風紀室にいるのは俺と野辺、そして政岡の三人のみだ。先ほどまで見守っていた風紀委員たちも一先ず騒ぎは落ち着いたのだと安心して外に出払っている。  つまり部外者はいない。  内緒話をするにはうってつけの状況だった。 「俺たちの中に、向こうと――生徒会の連中と繋がってる裏切り者がいるかもしれない」  そう、俺が声を落としたときだった。  野辺の目が隣の政岡に向き、視線を受けた政岡は「お、俺……?」と恐る恐る自分自身を指差した。いやなんでそうなんだ。俺が悪いのか。 「貴様よくもノコノコ俺の庭に来れたな裏切り者めが!!」 「ち、ちげえよ! 俺が尾張を裏切るわけねえだろうがよ!!」  早速二回戦目が始まる気配がし、慌てて俺は「あー悪い、俺の言い方が悪かった」と二人の間に入った。  そして先ほど、尾行した先で見たことについて二人に共有する。
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