ep.6 馬鹿も食わないラブロマンス

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 ――学園内、保健室。 「おるぁ!! 出てこい寒椿!!」 「政岡おいっ! 保健室は静かに……ッ!」  ここへ来る途中まで大人しいかと思いきや、なんなんだこいつは。  扉ぶっ壊す勢いで保健室に突っ込んでいく政岡を慌てて止めようとするが、一足遅かった。 「おやぁ? 今度は随分と元気なお客様ですね」  そして、保健室の奥。先程同様教員用デスクには未来屋がいた。背もたれに持たれたままくるりとこちらを振り返る未来屋は笑う。  こんなうるせえ客人が来ても動じない辺り流石ではあるが。 「すんません、一応止めたんだけど…おい政岡……っ!」 「おいショタコン教師、寒椿はどこにいやがる」 「ショタ……ッ」  確かにちょいちょい未来屋の言動が怪しいなとは思ったが――じゃなくて。  「政岡、もっと静かに……っ」 「人聞きが悪いではありませんか。……全く、子供好きだと言ってください」 「うるせえ、テメェと話してたら進まねーんだよ!」  言うや否や未来屋の横をずかずかと大股で突き進み、ベッドスペースまでやってきた政岡。  まさかこいつ、と俺が青ざめるよりも先に「ここか?!」と片っ端からカーテンを捲っていく。 「おい政岡――」  俺が覚えてるからまずは人の話を聞け、と慌てて政岡の腕を掴んだときだった。  仕切られたカーテンの向こうを見たまま固まる政岡。  確かに止まれと言ったが、今度はいきなりなんなんだ。とつられて政岡の視線の先に目を向けた俺は思わず「あ」と声を漏らした。  それは向こうも同じだった。 「――本当、あなた方は間が悪いですね」  濡れたような艷やかな黒髪、そして丁度舎弟らしき生徒に包帯を巻かれていた半裸のそいつは俺たちを見るなり舌打ちをする。 「能義、テメェ……ッ!!」 「それよりも、どういうことですか。零児、何故貴方が尾張さんと一緒に……」  ああ、まずい。色々面倒なことが芋づる式に起きている。これ以上は俺の手に負えない。  とにかく能義をどうにかするべきか、と考えるよりも先に慌てて仲裁に入ろうとしていた能義の舎弟に「ああ?!やんのか?!」と掴みかかる政岡。  おいやめろ面倒を増やすな、ととにかく落ち着かせようとしたときだ。 「なになに? もしかして今僕のことを探してたかい? バンビーナ」  隣のカーテンが開き、にゅっと顔を出す寒椿。  更にややこしくなっていた。 「寒椿、今は出てくるな……っておわ!」  言い終わるよりも先に放り投げられた舎弟がベッドスペースの外まで飛んでいく。  おい待てって言ったのにあいつまじか。 「おい、政岡……っ! いい加減にしろ!」  一旦落ち着け、と言うよりも早く政岡の腕にぎゅっとしがみついた。  瞬間、ようやくこの脳筋男は気を取り戻したようだ。びくりと肩を跳ねさせ、そしてちらりとこちらを見る。 「お、尾張……っ、悪い……」  先程までの勢いはどこに行ったのか、しゅるしゅると萎んでいく政岡。この光景、さっきも見た気がするぞ。 「えーと、こほん」  そんなときだった。ベッドの上、胡座を掻いて座っていた能義はなんともわざとらしい咳払いをした。 「色々聞きたいことはございますが、取り敢えず零児……貴方、これはどういうことですか?」  ぴくりと能義の片眉が持ち上がり、そしてゆっくりと政岡と俺を交互に見た。  そこで俺はこの展開がいかに最悪であるかということを理解した。  一応、表向き政岡は生徒会の連中と仲直りしたということになって潜入してもらっている身だ。  寒椿ならまだしも、能義にまで余計な勘ぐりをされるのはただ厄介だった。……いやだったらなんで今まじで舎弟放り投げたんだあいつ、ムカついたからか?我慢してくれ俺だって我慢してんだから。  この場を打開するために脳を回せば回すほど、どんどん脳味噌が絞られていくみたいだ。なにも浮かばない。つかまじでなんだよこの展開は。なんで能義もこいつでここにいるんだよ、そしてなんだその怪我は。寒椿は「やほ」じゃないんだ、情報量絞ってくれ。
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