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政岡がカーテンの外へとすごすご出ていったのを横目に、そのまま能義はにやにやと笑いながらこちらに視線を向ける。
「おやおや、いいのですか? 大事な番犬を自ら手放すなんて。余程私とお喋りをしたかったのでしょうか。それとも、元々手に余っていたのか」
「勝手に話を進めないでもらえるか? それに、あいつがいると話せないって言いだしたのはお前だろ」
「なに、ちょっとした可愛い戯れではありませんか。そうピリピリしないでください、仲良くしましょう」
「聞こえてんぞゴラァ!!」
聞こえていたのか。
カーテンの外から貫通して聞こえてくる政岡の声を無視し、どさくさに紛れて肩組もうとしてくる能義を避ける。
すると、おや、と能義は眉を寄せた。
「つれないではありませんか」
「お生憎様、俺はお前と仲良しこよししたくて残ったわけじゃねーんだわ」
そうだ、あくまで本題はそこではない。
「この怪我、誰にやられた?」
伸びてきた能義の腕を掴み上げれば、能義は痛がる素振りを見せるわけでもなくただくすくすと笑った。
「なんだかんだ私のことが気になって仕方がないようですね」
「能義」
「最初に言っておきましょうか、ここで私が貴方の問いに正直に話すメリットは何一つ御座いません」
「……」
「それから、私がでたらめに答える可能性は大いに――」
それ以上やつの言葉を聞く気にはなれなかった。
そのまま能義の胸ぐらを掴み、馬乗りになったときだった。
「バンビーナ」
気の抜けるような呼称とともに、案外強い力で肩を掴まれる。
振り返らずとも、そんな訳のわからない呼び名で俺を呼ぶ男などこの学園内でたった一人しかいない。
顔をあげれば、寒椿はどことなく寂しそうな目でこちらを見下ろしていた。
「狂犬の彼を何故わざわざ隔離したのかい? 君が冷静さを欠いてはなんの意味もないだろう」
――まさか、寒椿に宥められる日が来るなんて思いもよらなかった。
この際政岡のことを狂犬の彼とか言ってるのは置いておくが。
それにしても、自分では冷静のつもりだったのだが傍から見るとどうやら俺は冷静ではないらしい。
取り敢えず、一旦深呼吸でもしておくか。頭に酸素をたっぷりと送り、上がりかけた熱を冷ます。
「……能義、お前はなにか勘違いしてるよな」
「はい?」
そしてそのまま、俺は能義の手に指を絡めた。掌の下、能義の手の甲が僅かにぴくりと反応するのがわかった。おや、と睫毛に縁取られた目がこちらを見上げる。
そのままベッドの上、寒椿からは見えないようにシーツの下へとやつの右手を抑え込んだまま俺は能義に顔を寄せた。
「これはただのお話でも仲良しこよしでもなんでもねーんだよ」
そして、俺は能義の指を思いっきり締め上げたのだ。
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