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「あーあ、せっかくいいとこだったのに」
岩片がなんかほざきながらソファーに飛び込んだ。あれがいいところだったら、世の中の八割はいいとこ尽くしだ。内心突っ込みつつ、俺は部屋の扉を閉める。
部屋の中はまだ片付いていない。とはいえ、積まれたダンボールもそのまま転がされてるキャリーバッグも全部岩片の荷物だ、俺の荷物自体はそれほどない。さっさと片付けろよな、とは思ったが言ったところで岩片が動かないというのは知ってるので俺も放置する。
「さっきの会長……政岡、なんでここ来てたんだ?」
「知らねえ。なんか向こうから迫ってきたから、お返しに壁ドンしてキスしながらケツ揉もうとしたらいきなりキレだしたからな。わかんねえな、本当」
俺はお前のその謎の順応性の高さがわかんねえがな。
「あーあ、まじで不完全燃焼だわ。第一号にしようと思ったのに」
「あいつが生徒会長だってのは知ってたのか?」
「いんや? 知らねえ、つかまじでいきなりだったしな。……まあ、お前が丁度いいタイミングでクッションになってくれたお陰で助かったけど」
ソファーに座れば、岩片は「ナイスタイミングだったな」と笑う。確かに、俺があのとき戻ってこなかったらどうなってることやら、ああいうタイプが逆上したら手が付けられない。その点、能義もいたお陰で冷静さを失わせることはなかったのかもしれない。
岩片が喧嘩してる姿を俺は見たことない。というか、大抵誰かに絡まれてもこいつはニヤニヤ笑ってるだけで抵抗しないのだ。
何故抵抗しないのかと聞いたら、「そっちのが楽じゃん」とこいつは言った。その理論はよく分からない。けど、性癖が拗れてるこいつのことだ。俺が理解できるわけない。
「あー不完全燃焼でムラムラしてきた、ハジメお前ケツ貸せよ」
「オナホならそこの段ボールに入ってたぞ」
「あ? まじ? ハジメがやってくれんの? 俺的にハジメの天然オナホがいいんだけど」
「馬鹿、なんのための道具だよ。一人でやれよ」
「へえ、俺に公開オナれと。いい趣味してんじゃねえの、ハジメ君」
本当にこいつのセクハラはそこらのオッサンよりたち悪いな。
口だけだとは分かっていたが、つい先程神楽に触られたことを思い出してあまりいい気分ではない。
「……どうかしたのか?」
不意に、俺のリアクションに違和感を覚えたのだろうか、岩片に声を掛けられ、ハッとする。
「なんもねえよ、別に」
本当はなんもないどころか色々ありすぎるのだが、どこから説明したらいいのか分からない。俺も俺で、思ったよりも今日一日次々と起きるあれこれに混乱してるようだ。
「それより部屋の掃除しようぜ、さっきから落ち着かねーんだけど」
「頼んだ」
「おい、殆ど荷物はお前のだろ。俺が勝手に触ったら怒るくせに」
とにかく、落ち着きたかった。
面倒臭いやりたくないと駄々捏ねる岩片とともに段ボールの中から生活必需品を取り出し、部屋を片付けていく。
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