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歩く度に腹の中で異物が擦れる。その感触がひたすら不快だった。
「……くそ……っ」
人気のないトイレまで来た俺は自分の下半身に手を伸ばす。深く栓されたシリコン製の玩具を引き抜いた瞬間、腹の中に残っていた誰かさんの体液が溢れ、ティッシュで拭う。
手にしたそれを便所の隅に投げ捨て、俺は便器に腰をかけた。
できることならここで誰にも会わずに引き篭もっていたい。けれど、こうして穏やかに過ごせているのも時間の問題だと分かっていた。
岩片に喧嘩を売ったのは俺だ。
あいつが生易しい男ではないということを知ってるのも俺だ。
他の生徒会の連中に伝わってしまえば、ここで悠長にしてるとあっという間に捕まってしまう。
岩片がとった選択は最悪なものだった。
あいつは、敢えて俺が他のやつらを頼れないようにしやがった。残された選択肢を罠として反転させたのだ。
分かっていた、そんなことを無視して本気で信じてる体で政岡や五十嵐の元へ行けばいいのだと。
それが出来ないのは俺があいつらのことを完全に信用しきれていないからだ。それを、あいつは――岩片は逆手に取りやがった。
「……」
呼吸を繰り返す。今は落ち着くしかない。
馬喰なら――あいつなら、助けてくれるのではないか。生徒会と確執はあるし、簡単に売り出す真似はしないだろう。
脳裏に浮かぶ寒椿とのやり取りが気がかりであったが、今は手段を選んでる余裕はない。
それに、いつまでもこの格好でいるわけにはいかない。
便所の外、足音が近づいてくるのがわかった。
足音の数からして一人、二人か。……これならば、いける。
いくらなんでもほぼ全裸で馬喰に会いに行くわけにはいかなかった。
呼吸を殺し、扉の外へと出る。
ひとまず、服を調達しなければならない。
どこの馬の骨かもわからない野郎の汗が染み込んだ服など着たくはなかったが我儘いってる場合ではない。
こちらに気付かず呑気にゲラゲラと談笑してる二人組に近づいた。
鬼ごっこは既に始まっている。
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