final ep.I 馬鹿ばっか

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 五条の縄を解きながら、俺は「なあ」とこっそりと五条に声をかける。 「ん?」 「なんで俺の味方するんだ?」  それは純粋な疑問だった。  五条の物的証拠をお披露目せずに済んだものの、何故そこまでするのかが分からなかった。  まさか何か企んでるのではないだろうな、と見つめれば、五条は「ああ、それな」と笑う。   「そりゃ俺の大事な金のなる木……ってのは冗談で、そういう契約になってるから」 「契約って……」 「尾張が困ってたら助けてやってくれってさ、本当、難儀だよなあ。どいつもこいつも、自分で株上げりゃいいのに」 「ま、俺的には懐温まって助かるんだけどさ」と冷ややかに笑う五条はすっかり跡になった手首を擦る。  岩片……な、わけではない。となると、誰だ。  政岡か?とも思ったが、なんとなく五条の表情と言い回しが引っかかって考えるのを辞めた。  どちらさんのお陰かは知らないが、俺の味方であろうがなかろうが五条がここにいるという事実だけでも大分ありがたいというのが本音だった。 「誰が契約相手なのか聞かないのか、尾張」 「聞いたところで『契約違反だ』って言いそうだからな、お前」 「お、分かってきたな。ビジネスの何たるかを」  なんて、余計な情報に掻き乱されたくないというのが本音だ。  今から俺がやることはあいつらと対峙することなのだ。その決意を揺らがしたくない。日和ってるって言われたらそれまでだが。 「本当に両手足自由にさせるつもりか? この害虫男のこと、貴様も知ってるだろう。腕くらい縛り上げておくべきではないか」 「あー、分かってるけど……いいんだよ。それに、こいつにもどうせすぐ働いてもらうことになるだろうからさ」 「え? 俺?」  反応したのは五条だった。俺は頷き返し、野辺に向き直る。 「とにかく、今は生徒会のやつらの動向が知りたい」 「ああ、それなら俺が調べてこようか」 「いや、五条お前は別のことを頼みたいんだ。これについては風紀委員でお願いしたい」 「構わん。総員叩き起こしてある、生徒会の連中は見つけ次第捕縛でいいか?」 「ん、ああ……まあ喋れるくらいにはしといてくれよな」 「……なんだ、つまらんやつめ」」  つまらんって言ったぞ、この男。教師の前で。  宮藤に思わず目を向ければ、「いつものことなので気にするな」のポーズをしていた。  それもそれでどうなのだ。  早速外に待機させていたらしい風紀委員たちを集収、もしくは連絡網回させる野辺を尻目に、「五条」と俺は暇を持て余していた五条に声をかける。 「ん? どうした?」 「お前は今誰かさんの契約で俺を助けてくれてるんだっけな」 「ああ、そうだな」 「その契約破棄させて、俺と契約することはできるのか?」  興味本位で尋ねてみれば、五条は馴れ馴れしく俺の肩に手を回し、そして顔の眼の前で指で輪っかを作る。 「今回の場合は期限込みだったからさ、契約金プラス契約破棄代と誰かさんの契約金分も乗っかかってくるけど大丈夫そ?」 「……因みにいくら?」  にっと笑い、そのまま五条は俺の耳元で囁きかけてくる。想像してた倍くらいの金額に思わず噴き出しそうになった。高校生の小遣いでは到底、いや平均的なサラリーマンでも大分苦しい金額だ。つかそんなに儲かるのか、情報屋って。……いや、今回は別途になるが。 「……ってのは冗談で、契約破棄なしのままのお願い聞くだけならボランティアでOKだけど?」 「俺の手助けねえ……」 「まだ俺のこと、信用できねえ?」 「まだな。つうか、お前のバックがな」  素直に告げれば、「ああ、そういうこと」と五条は納得したように呟く。 「お前は高い金払ってくれるやつの味方だからな」 「そうだな」 「潔いな」 「でもまあこういうのは信用商売なんでね、お前が俺のこと信用できないならやめた方がいいな」  そう突き放すようなことを言われると、胸の奥がちくりと反応する。 「分かったよ」と呟けば、五条は「ん?」とこちらを見た。 「お前に頼みたいことがある。……けれど、これは他のやつらに秘密にしてて欲しい」  信用すること、信頼すること、他人を頼ること。  どれも利用することしかしてこなかった俺にとっては難しいものだが、どうやら向き合わなければならないらしい。 「頼めるか」と訪ねれば、「勿論」と五条は満面の笑みを浮かべた。
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