ep.2 酔狂ゲーム

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 恐らく、というより間違いなく試されているのだろう。こんなメリットデメリットがハッキリした賭けを仕掛けてくる岩片に、胸糞悪さのあまりに自然と笑みが浮かんだ。 「ほんっと、悪趣味」 「あははっ! 褒めんなよ、照れるだろ」  俺が辞められないのをわかっててこういう条件を出す岩片は相当性格が悪い。  笑みを引きつらせる俺に対し、大きく口を開けてゲラゲラと笑い出したと思えばすぐに真顔に戻る岩片。 「まあ、これでお前も楽しくなったろ?」 「お陰さまでな」 「感謝しろよ」  軽薄に笑う岩片に、今までのこと全て本気か冗談かわからなくなってくる。恐らく全て本気なのだろう。訂正しない辺り、岩片の思案が伺えた。 「あ、そーだ。さっき言ってた書記だっけ?」 「五十嵐彩乃か」 「えっ、あいつ彩乃って言うんだ。やべー可愛いじゃん、ドキドキしてきた」 「……で、そいつがどうした?」 「ん? あ、そうそう。一応協力するってことにしといて」  脱線し掛けていた岩片の言葉に、俺は「わかった」とだけ答える。  一応か。岩片のことだ。どうせまた良からぬことを企んでいるのだろう。敢えて俺は突っ込んだことを聞かないようにした。 「よし、そうと決まったら俺たちもやらなきゃいけないことが出てきたな」 「やらなきゃいけないこと?」  喉が渇いたのか、立ち上がるなりそのまま冷蔵庫まで歩いていく岩片。 「そ、やらなきゃいけないこと。このままじゃリタイア云々より先にハジメが潰れるかもしれねーしな」  冷蔵庫の中から、寮内の自販機で購入したサイダーが入ったペットボトルを取り出す岩片はそのキャップを捻りながら続ける。  潰れる、ということは恐らく先ほど言っていた岩片の分の負担を全て俺が被ったときのことを言っているのだろう。 「それで、なにすんだよ」 「んぐ……っぷは、あ゛ー生き返る」 「あ、俺にも頂戴」 「仕方ねーな」  そう言いながらやってきた岩片は俺にペットボトルを手渡す。冷たい表面が心地がよく、「どーも」と言いながらそれを受けとれば岩片は「50円な」とにやりと笑った。金取る気か、こいつ。一瞬飲むのを躊躇う俺に岩片は「冗談だよ」と笑った。 「それでだけど……なんだっけ」 「やらなきゃいけないこと」 「あーそうそう、それな」  一口分それを喉に流し込み、俺はソファーに腰をかける岩片を目に向けた。目が合えば、岩片はにこりと笑う。 「この学校にも、俺の親衛隊を作ろうと思う」  親衛隊。俺にとってそれは馴染みある言葉だった。 「……そんな簡単に言ってるけどなぁ、ここ、前のとこと全然違うんだぞ」  なんでもないようにそう口にする岩片に、俺はそう顔をしかめる。  確かに、前のように金やら顔やらセックスやらで戯れていた物好きな御坊っちゃま相手ならどうにかなるかもしれないが、ここは違う。  見掛けばかりはいいものの、中はただの不良の巣窟だ。力だけはある生徒相手に、男である岩片がたぶらかすことが出来るかどうかはかなり怪しい。 「違う? 俺からしてみればどこも一緒だぞ。自分に合わない環境なら無理矢理にでも作り替えればいいだろ。なんのためにわざわざお前を連れてきたと思ってるんだ、ハジメ」  つまりそれは、岩片の代わりに俺が力で黙らせろと言うことですか。相変わらず当たり前のような顔して厄介な仕事を投げ掛けてくる岩片に、俺は「そうだったな」と諦めたように小さく息を吐く。  まあ確かに自分の力は自信はあったが、ここ二日間で既に生徒会役員に力負けしたことを思い出してしまった俺は内心冷や汗を滲ませる。  あんな状況だし負けたなんて認めたくないのでなかったことにしよう。 「俺がお前の護衛するってのはわかったけど、親衛隊だろ? いい人材はいるのか」 「まあ、今のところ二人。一人はわかんねえけど、もう一人は確実にいける」  もう見付けたのか、こいつ。 「ま、二人ともすぐに落とすから安心しろよ」  相変わらず自信過剰な岩片は、そう言って俺に笑いかけてきた。  流石、隙有らば男漁りをしてるだけある。あまり褒めたくはないが、こういうことに対しての無駄な積極性とかは尊敬してしまう。 「名前はわかってんのか?」 「一人はな」 「どんなやつ?」 「うーんと、なんて言ったらいいかな。普通のやつだよ」  よっぽど特徴がないのか、言葉に詰まる岩片に俺は「普通?」と聞き返す。 「そ、普通。あーなんて言えばいいかわかんねえ」  岩片がここまで悩むのも珍しい。胸を反らすように大きく背凭れにもたれ掛かった岩片はそのまま動きを止め、「あ、そうだ」と声を漏らした。 「なんなら、今から会いに行くか」  そう思い付いたように提案する岩片は、言いながらむくりと起き上がる。 「今から?  場所わかんのか?」 「丁度飯時だし食堂にいるだろ。それに、これ返そうと思ってたところだったし」  言いながら岩片が制服のポケットから取り出したのは、今朝クラスメートの男子生徒から取り上げていた携帯ゲーム機だった。
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