ep.2 酔狂ゲーム

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 ――学生寮・食堂。  時間が時間だからか、食堂内は私服制服の生徒で賑わっている。さっさと夕食を取った俺たちは、岩片のいう親衛隊候補の生徒を探すことに専念した。  やはり色々な意味で目立つ岩片と行動をすると突き刺さる視線が痛く感じたが、今に始まったことではない。それに、恐らく視線には別の理由もあるだろう。  とにかく、さっさとそのクラスメートと接触して場所を移動した方がいいかもしれない。思いながら俺は岩片の言うクラスメートを探すが、それらしき生徒は見当たらない。  岩片曰く普通の生徒というのだが場所が場所だからか、どこを見ても髪の色がカラフルだったり普通そうなやつがいてもどこかしら改造制服やら派手な私服やらで完全に普通と呼べるようなやつはいない。 「なあ岩片、他に特徴とかさぁ……」  あまりの見つからなさに空腹が限界に近付いてきた俺はそう岩片の後ろ姿に声を掛けようとしたときだ。  不意に、側を通りかかった生徒に肩をぶつけてしまう。 「あ、わり……」  そして、慌てて振り向きその生徒に声をかけようとすれば、次の瞬間ガランガランの音を立てなにかが床の上に落ちた。どうやらぶつかった拍子に生徒の手から持っていた空の食器が離れたようだ。  幸い衝撃に強い素材だったようで壊れはしなかったが、それでも足を止めずにはいられない。 「あっ、ご、ごめんなさいっ」  そう情けない声を上げながらわたわたとその場に座り込むその気が弱そうな生徒。俺の足元に転がっていた食器を拾い上げた俺は、「はい」と言いながらそれを男子生徒に渡す。 「あっありがとうございます……って、あれ、尾張君?」  全ての食器を拾い上げ、そう恐る恐る俺を見上げてくるその生徒はこっちを見るなり少し驚いたような顔をした。 「どういたしまして」  そう微笑み返しつつも『誰だっけこいつ』と見覚えがない男子生徒の記憶を呼び起こそうとした時だ。 「おい、なにやってんだよハジメ……って、ああっ」  いつまで経ってもやってこない俺が気になったのか、近付いてきた岩片は俺の側にいるその男子生徒を見るなりそう声を上げる。  ――次はなんなんだ。  そう騒ぐ岩片の方に目を向けたとき、側の男子生徒はやってくる岩片を見るなり「ひぃっ」と声を上げる。  お互いに顔を合わせ反応する二人に、俺は直感でこの薄い顔の男子生徒が親衛隊候補だと理解した。 「じゃ……じゃあ、俺はこれで」 「ハジメ! そいつだそいつ! さっさと取っ捕まえろ!」  見事に二人の声が重なる。危険を察知したのか、そそくさと逃げ出そうとする男子生徒。  出来ることなら一生徒のために見逃して上げたいが、岩片から命令が入った今それはできない。 「わかったからでけー声出すなって」  そう岩片を叱りつけながら俺は逃げ出す直前の男子生徒の腕を掴んだ。  男子生徒の方から小さな舌打ちが聞こえてくる。そして、そのまま掴んだ腕を振り払われそうになった。  細身な見た目に比べて結構力が強い。けど、力比べなら俺の方が上だ。  必死に抜け出そうとする骨っぽい手首を掴んだまま一気に捻り上げれば、男子生徒が小さく呻き声を漏らす。 「わりーけどさ、ちょっといいかな。こいつが話あるんだってよ すぐ終わるからさ、な?」  もう片方の腕を後ろ手に掴み、完全に男子生徒を拘束した。
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