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空中を海面に向かって落ちてゆく少女。その小さくなる姿に狙いを定めて、少年は迷うことなく艦のデッキから飛び出した。
高さにして五十メーターを超えるその場所から飛び降り、かつ海面に叩きつけられて無事で済むとは、よもや本人も思ってはいまい。
それでも、その少女を死なせたくないというその一心のみで、そのような危険な行動に出たことに対して、彼の中には後悔などあるわけもなかった。
甲板の縁に足をかけてから、全身に蒼い光を纏って一直線に加速していき、重力に任せて自由落下していく彼女に追いついて。その痩せ細った身体を掴んで反転、背中から海に落ちてゆく。
しかし彼にはそれ以上のことは出来ない。
可能なのは自身の防御力を強化してダメージをできるだけ減らすことだ。
そんな必死な少年の心持ちも知らず、その腕の中では少女が穏やかに寝息を立てている。このまま潰れて死んでしまったとしても、気付くことはないのだろう。
蒼い光が海面に衝突する瞬間。
ばふっ!
そんな音と、水とは違う柔らかくも鋭い冷たさが少年の全身を包んでいた。粉のような氷のクッション。知る者はそれを粉雪と呼称することを、少年は知らない。
衝撃に舞い上がった小さな雪の結晶を眺めながら、彼は艦上にいる魔術師の姿を確認して、嗚呼と心底から安堵した声を発するのだった。
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