五「蒼空を断つ二人」

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 鮮やかな空色の霊力を纏った呪術師は、今は陽絵空としての意識を持ってはいない。  封じられた意識を繋ぎ合わせて、誰でもない呪術師として、そこに立っている。 「なに、それ」  驚いたのだろう、シノニムも思わず声を出してしまい。同時に一歩後退った。 「さあ、何だと思うんだ? 今の僕を」  二つの声が混じり合った、澄んだアルトが響いた。  その挑発的な響きに、シノニムはきりと歯を噛みしめる。怒ったわけでもなく、面白くもなく。ただ面倒そうに睥睨するのみだ。  右腕を振るった。  同時に呪術師が右腕をゆらりと前に出す。  シノニムの放った風の刃がそれだけで弾かれた。空気の弾ける音を立てて、しかしその残滓はどこにも見つからず。  それでも呪術師は動かない。空色の眼でただシノニムを見つめている。 「…………っ!」  無色の圧力がシノニムを焦燥させる。だから彼女も手加減はしなかった。  両腕を伸ばしてその掌に風を収束させていく。異能「大気」の扱う圧縮空気とは違い、あくまで風を集めたものだ。しかし。  それを解放した瞬間、竜巻を前方に走らせるような渦巻く風が甲板までも抉って、呪術師に向かっていく。風の刃と衝撃を混ぜ合わせた全力攻撃が当たる前に、呪術師はそれを左手で「すらり」と綺麗に払い除けていた。  同時に右手で印を切る。 「ゼロ・ウィング・エッダ」  呪術師の周囲、シノニムも巻き込んで結界が展開される。範囲は半径百メートル。  境界線は見えないけれど、それは二人から遠いというだけだった。
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