7人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだよ、あれは」
原理は不可解を隠そうともせずに声を上げていた。
「なんで、翼さんの気配が空に……」
「あれが、彼が空に遺した最後の想いよ。自分の指環に魂の一部を封じていたの」
答えたのは杏樹だ。同じように彼のことを知っている二人だからこそ、その情報は共有する意味のあるものだったけれど。
「空の奥の手であり、一度しか使えない切り札なの。空は、あれをシノの為に使うと決めていたらしいわね」
「……なんで、そんな大事なものを、今」
杏樹は少しだけ沈黙してから、「いつかは忘れなければならないことだからよ」と返した。
「忘れたい過去じゃないけれど。それでも空には、未練として残っている。どこかでそれを振り切らなきゃあ、あの子は前には進めない。忌方君とは違う形でね」
「忘れることなんて、ないだろ」
「空ね。今、気になる人が居るらしいのよ」
え、と原理は意外そうに息を詰める。でも、それは別に普通のことだと知っていた。
「その人が誰なのかは聞けなかったけれど。でも、進もうとしているのなら。過去にけりをつけるのも必要でしょう?」
空々君のことを忘れ去るという意味ではないはずだけどね。そう言って、回線の向こうで息を吐いていた。
「それに、シノの未来を同時に案じてもいたからね。引き換えにするには同等の存在だということなのかも、知れないわ」
「……そうか」
空が、自分で自分の為に決めたことならば、原理には口を出す理由はない。ただ、彼女がやろうとしていることを見守るくらいのことしか、できないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!