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……
甲板に叩きつけられた二人は転がりながら解け、痛みに耐えながら立ち上がっていた。
呪術によって整備された結界が、二人以外の出入りを禁じているのを確かめてから、原理は未だ殺意を消耗しきらないシノニムに向かい合う。
「うう、うぅぅううぅ」
シノニムは両腕で自分を縛るようにしながら唸っている。
原理は落ち着かない心臓を抑え込もうとするように、深呼吸していた。
「シノ、まだ続ける気なのか」
「…………終わらせるのはわたしじゃない」
その返答に眉を顰める。頑なだ、と思うことも面倒になっていた。
(こんなこと、いつまでも続けるものじゃない)
ぎり、と歯を食いしばって。ならば、俺が終わらせるしかないかと聞こえないように囁く。シノニムは、そんな原理の心情など知らず、再び風を撃ち出してきた。
真っ直ぐに向かってくるそれを、原理は躱さない。
ただ、右の拳を突くことで弾いてかき消す。
構えた拳の先に揺らめく蒼い霊力が、彼の心の落ち着きを示していた。
踏み出す。一歩目からトップスピードだった。
それを拒絶するように、シノニムは風を連続で撃ってくる。無数に広がる鋭い刃が迫るけれど、原理はそれを一つ一つ、丁寧に躱していく。
風を刃にする際に、シノニムは空気を集めて一本の線にしているのだが、そのラインが通る際のすぐそばにある、急激な気圧差による空気の流れ。それに巧く乗っかって斬撃を躱していくのだ。
「当たらない……?」
訝るのも一瞬、シノニムは両腕に紅い光を灯し、向かってくる原理の体躯に全力で叩きつける。
「ふっ!」
同時に原理が掬い上げるように左腕を振り上げる。
蒼い光と紅い光は衝突して弾ける。
「うおあっ」
双方が力の反発に圧されて大きく吹き飛んだ。甲板を転がりながら、それでも二人は相手を見落とすことなく睨みつける。
受け身を取って起き上がると、原理もシノニムも互いに霊力を右手に集中させていた。
「受け止めてみせろよ、ウィンガード!」
「もうどうだっていいんだよ、こんなこと!」
苛立ちと、絶望を混ぜ合わせたシノニムの声に、原理はそんなことないだろと思いつつ、あるだけの力を可能な限り凝縮して―――、
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