7人が本棚に入れています
本棚に追加
終「世界の終わりと人間の枠」
戦闘に参加した全員にしばらく休養するように通達が来ていた。
背中に大きな傷を負った原理は、再び医療ブロックの病室で失った血液を戻しながらぼんやりしているのだったけれど。
「で、仕事はなくなりはしないし。そもそも艦の損壊に金工職が全員出払う異常事態ってのは判ったけれど」
壊したのはシノニムだったけれど、彼女に直す能力があるわけもなく。
結果、今度は彼女の責任者である原理がその始末書を書く必要があるのだった。
「いやー、大変だなあ。隊長職ってのも」
「明人。そんな適当そうに言われても反応しづらいぞ」
何故かベッドの横で座っている上条に突っ込むと、そうか? と首を傾げられた。
「ちゃんと反応してくれたじゃないか、今」
「だろうけどな。で、何しに来たんだよ」
「見物だよ。それと関心事」
「あ?」
聞きなれない言葉に反応する原理だが、上条は本題をすぐに提示してきた。
「お前、新入りの隊員に告ったってマジか?」
「…………………………………………」
誰がこいつに言ったのだろうかと訝るように視線を向けると、上条は答えず。しかしその奥で壁に寄り掛かっている尸遠に視線を送っていた。
「まあ、面白いものね。共有しなきゃあ勿体ないよ」
「開き直りやがった……」
なんというか、やはり。
人の口には戸が立てられないものだよなあと諦めるしかないのだ。
数日して、傷をある程度治してからは自由に行動できるようになっていた。
そんな原理が最初に何をしたのかというと、杏樹との意見のすり合わせという、至極真っ当な副隊長としての職務だった。
「シノの殺人鬼としての力は消えてしまったわけではないらしいわね」
「そうなのか? 殺意は無くなっているんだろ」
「潮視屋さんが確かめていたわ。殺意が彼女自身の異能と溶け合って、また別の能力となっているらしいの。緑光風羽すら上回る、新しい「風」の異能。名前はあとで考えましょうか」
そうか、と原理は頷いた。
「鍛えれば、忌方君と遜色ない戦闘員になる可能性があるわ。彼女がそれを望めば、だけれど」
「…………まあ、そうなればこっちとしても助かるが」
「でも、本当はそうは思っていないんでしょう?」
まあね、と返す。
そりゃあ、好意を寄せる人物を積極的に戦場へ送る馬鹿はいないだろう。
原理だって人間だ、大切だと思ったものを喪うのは可能な限り避けたいと思っている。
「上の指示があれば従うしかないんだろうが、俺は嫌だな」
その言葉に、杏樹がくすりと笑う。
「青生坂君と同じことを言うのね。面白い傾向」
「……………………………………………………」
なんとなく、恥ずかしい。でも、こっちもどことなく面白いとは思っていた。自分が本当に変化してしまっているのが理解できてしまって。
それが、嫌だとは思わないのだ。
「面白がられても困るだけなんだけどな。別にいいけど」
「まあ、そんなに穿られもしないでしょ。珍しいことでもないのだし」
「だったらいいね、な話にするなよ? つうか、尸遠がさっそく言いふらしてやがる」
あは、は。
杏樹は困ったように笑っている。その行動は予想外だったらしい。
「ともかく、これからはシノの希望を聞かなきゃな。それ以上はこっちから動けない」
「そうね。じゃあ、訊いておいてね。責任者として」
ぐは。
息を吐いて、しぶしぶ「わかったよ」と応えた。
最初のコメントを投稿しよう!