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「で、陽絵隊長は何故肩車をさせているんです?」
正面からそんな声が飛んできた。
「尸遠。こんな時間に何してるんだ、珍しい」
「ん? 暇だからねえ。うろついてただけで、この状況だよ」
青生坂尸遠(あおいざか・しおん)が緩やかに笑いながら、困ったように身体を揺らしている。彼は原理たちとは違う部隊に所属しているが、何故か行動を共にすることの多い存在だった。
原理と年齢も近く、よく話すのだが。
「ぬなぬなー」
「回答になっていないぞ」
空はあまり興味が無いようだった。仲が悪いわけではないのだけれど、呪術師と魔術師の相性の悪さが薄い壁になってしまっているのだ。
「ゲン君がそうしてると、どっちの年齢が上なんだかわからないね」
「言うな、それを」
自分も感じていたから。そう言いかけて、呑み込んだ。
あまり迂闊にそういうことを言うのは控えているが、原理にはそれがどういう理由だったのかを憶えていなかった。
まあ、思い出す必要もないか、と考えていると。
「原理、こっち」
くい、と空が原理の頭頂部にある一房だけ跳ねた髪を引いて方向を指示する。そこはハンドルじゃないんだけどな、とか思いつつ四人で進んでいくと、艦内の左舷にある大きなスペースの一つであるラウンジに出てくる。
ガラス戸を押して入っていくと、夜が更けているのにもかかわらず、少なくない数の人がそこに集まっている。
「んー」
空が原理の肩から降りて、長いスペースに整然と並んだテーブルの間を抜けていく。それを珍しそうに見ている集団もあれば、まるきり気にしていない集団もあった。戦闘部隊は大きな集団ではあるけれど、認知度はそれほど高くもないようだった。
「あれ、亜友が居るな。何してんだろ」
奥の方に見つけた同僚、潮視屋亜友(しおみや・あゆ)に向けて歩いていくと、向こうも原理の姿に気付いたようで紫色の視線を送ってくる。
「やっほ。ここに来ると思ってたよ」
「え、読まれてたのか?」
予知能力なのか、と訝るけれどそういうことではなく、単に原理たちの行動パターンを読んでいただけのことらしい。彼女は呪術師であると同時に情報処理を担当しているので、そういうことなのだろうかと妙に納得してしまう。
「ゲンに頼まれごとがあってね。これ」
言いながら、自らの端末を操作する。同時に自分の端末に何かのデータが送られてきた。
原理の端末上で展開すると、それは何かの軌道を描いた3Dマップで。
「これって、どこから来たものなんだ?」
「さあ。長距離通信で拾ったものだから、出所が判らないんだよね」
ただ、この軌道情報が何か重要そうだから、みんなで共有しておきたいと言うのだ。
「うーん、このデータで何が判るんだろう。軌道はともかく、位置情報が無いんじゃ「対象」の現在位置も出せないんだろ?」
「時刻の情報と緯度経度はあるから、ある程度分かるけどね。さっき計算してみたら、そろそろこの近辺を通過するって出たから―――ゲン? どこ見てるの?」
原理は何故か窓の外を眺めていた。その視線は景色を眺めるような安穏としたものではなく、敵を射抜くような剣呑なものだった。
殺気こそ出してはいないが、刃のように鋭い視線が見ているものは。
「尸遠くんもそっちの方を見てるよ。何か感じることでもあるみたいだね」
いつの間にか戻ってきていた空は、そんな風に言いだした。その指が差す先の少年も、原理と同じ方向に視線を送っている。
「じゃあ、行こうか。敵が出るなら早めに対処した方が良いでしょ」
ずっと無言で近くに居た杏樹が、上を指す。デッキへ出ようと言っているのだ。
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