一「蒼と赤」

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「っくそ、そういうことか!」  迷うことなく彼は駆けだした。このままでは到底間に合わず、仕方なしに今あるありったけの霊力を解放して、最大レベルの加速でデッキを駆け抜ける。 「忌方君⁉」  杏樹が驚いたように叫んだ。そんな声を完全に無視して、デッキの縁から海面に向かって一直線に飛び出したのだった。  海に向かって落ちていく少女を抱き留め、そのまま自分の背を下にして落下する。  数十メーターの高さから海に飛び込んで、無事でいられる人間などそうは居なかった。原理もそれは例外ではなく、海面に叩きつけられる瞬間に死を覚悟していた。 「馬鹿か君は!」  そんな声が耳に届く。瞬間、落下点の海水が柔らかい雪に変化し、二人の体重を完全に受け止めきった。  尸遠が右手を振り上げる。それを合図に氷が伸びあがり、原理を持ち上げてデッキまで戻すのだった。 「ははは」 「笑って誤魔化さない。本当に考えなしだね、そういう時」  呆れたような尸遠の台詞に、返す言葉はなかった。助かったとはいっても、やはり肝は冷えるし、こんな無茶が何度も通じるとは本人だって思ってはいなかった。 「助かったよ。また借りができたな」 「これで何個目なんだろうね」 「二十二。これって生きてるうちに返せるものなのかね」 「律儀に数えてるんだね……。まあいいけど、返してもらう必要はないよ。君の無茶苦茶はいつものことだもの」  唸ってしまう。いつものことで済ませられてしまうと、それはそれでいい傾向ではないのだが。 「まあ、いいか。とりあえず、今はこっちだな」  原理が右腕で抱えている、四肢を胎児のように折りたたんで、小さく寝息を立てている赤毛の少女。  異形の身体の内部から現れたこの子が一体何者なのか、考える必要がありそうだった。
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