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club の男
「信っじらんない!」
里美は、席に着くなりそう叫んだ。
「メニューくらい頼もうよ。すいません、私、Aセットで」
梨乃が、落ち着いた声でそう言った。
「私Cセットくださーい。ドリンクは食後にコーヒーで~」
麗香が甘ったるい声でそう言った。
「は、はい!」
いかにも女性に免疫のなさそうな男性店員が、麗香の露出気味の服と色気のある視線に、顔を真っ赤にさせながら答えた。
「私もAセットで。…ねぇ、それでさ、聞いてよ」
男性が麗香にノックアウトされるのなんて、友達になった十八歳の頃からさんざん見て来た光景なので、特に驚くこともなく、里美は話を続けた。
「昨日、久しぶりにクラブに行ったんだけどさ」
「クラブ?って昔よく通ってた『X』?」
梨乃が驚いた声で聞いた。
「X」とは二十代前半の男女が多く集うクラブで、曲目は基本オールジャンル。誰でも分かる流行りの音楽を流しているため、音楽に興味がない若者でも入りやすく、いわゆる「ナンパ箱」と言われているクラブだ。
里美が四年ほど前に毎週のように通っており、その戦績をよく梨乃や麗香に話していたものだ。
「そう!四年ぶりに行ってきたんだけどね、相変わらずトイレに行くのも一苦労なくらい、ぎっちぎちに人が入ってて。ナンパの巣窟だったわけよ」
「分かってて、ナンパされに行ったんでしょ?」
麗香が運ばれてきたスープに口を付けながら言った。
「その通り!職場にクラブ行ったことないって言う後輩がいたから『財布なんかいらないよ。男の人がおごってくれるから』とかイキって連れて行ってあげたわけよ」
里美がそう話すと、
「本当に毎週財布持たずに、年齢確認用の免許証だけ持って行ってたもんね」
と、梨乃が相槌を打った。
「だって、四年前はほっといても次から次に声かけられたんだもん!順番待ちしてるヤツがいるくらいだったし……」
里美が当時を思い出しながら、キラキラした瞳で言った。
「で?今回は違った、と」
麗香が、話のオチは見えたとばかりに、先回りして言った。
「そ・う・な・の!入ってから一時間。誰にも声かけられなくてさ!」
里美が不服そうに言った。
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