6人が本棚に入れています
本棚に追加
「まぁ、もう里美も三十路だもんね~」
麗香が、次はサラダに手をつけながら言った。
「三十路じゃない!まだ二十九歳!!――まぁね、それはある程度予想してないこともなかったわけよ。でもビックリしたのが……連れていった後輩の加奈子(ちょっと地味目女子)が、私より先に声かえられてことなのよおぉぉ!」
里美が、机をバンバン叩きながら、悔しそうに言った。
「加奈子ちゃんって、いくつなの?」
麗香が冷静な声で聞いた。
「二十……三歳……」
里美が消え入りそうな声で答えた。
「それじゃ、しょうがないわよ。どんなに地味だろうと、若さには勝てないって」
麗香が、キレイな仕草で運ばれてきた若鳥のグリルを切り分けながら言った。
「わ、私だって二十九には見えないねって言われるもん!」
「まぁ、里美は確かに童顔ではあるけど。それでも、肌のハリでどっちが若いかなんて、分かっちゃうものじゃない」
「確かに、今まで化粧っ気なかったのもあって、後輩の肌はプリプリだったけどさ……」
「女性にとって若さは、最強の武器で魅力よ~」
里美と麗香の言い合いを、カルボナーラを頬張りながら、黙って聞いていた梨乃が、口を開いた。
「その割には里美、また今日も行く気なんじゃない?」
「え! 何で分かったの!?」
里美が驚いた声で言った。
「分かるわよ。そんな肩出した格好で、他にどこ行くって言うのよ」
梨乃が冷静な声でそう言うと、
「なぁに? 結局クラブにまたハマってるんじゃない」
と、麗香が呆れ顔で続けた。
「ち、違うの! 前回チヤホヤされてすっかりクラブにハマっちゃった後輩に誘われて、今日は仕方なく……」
「ふーん」
慌てて弁解する里美に、それほど興味なさそうな声で梨乃が答えた。
「あと、実は前回……すっごいタイプな人、見つけちゃって!」
里美が急にキラキラした瞳で語り始めた。
「出た! 里美の一目惚れ」
麗香が「またか」という表情で言った。
「だ――って! 久々にビビッと来ちゃったんだもん! ジャック&ダニエルの平瀬君似のイケメンでさ――」
「ジャック&ダニエル」は最近十代・二十代を中心に人気が出ているアイドルグループだ。
「しかも、ロレックスつけてたのよ、ロレックス! あれはいい仕事してると思うんだ~」
「ハイ、出た」
麗香と梨乃が顔を見合わせて言った。
里美は、昔から外見ですぐ人を好きになってしまうタイプだったのだが、社会人になって結婚を意識し出してからは、「高スペック」という条件がさらに加わり、その二つで男を品定めする癖がついていた。
「クラブで遊びまわってた時は、男を名前じゃなくて仕事で呼んでたもんね」
梨乃が言った。
「『UFJ』とか『警察官』とかね。ケータイの登録名が『○○くん(警察官)』とかだったのは笑ったわ」
麗香が同調した。
「だって、大事じゃない? フリーターとは付き合えないもん」
里美が悪びれる様子もなく言った。
最初のコメントを投稿しよう!