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あの騒動から二週間後、 あいつが転校する事になった。 何度もLINEを送ろうか、迷っているうちにその噂が学校に流れた。 俺のせいなのか? 俺があいつの病原菌なのか。 俺は放課後に「転校の話は本当か? 今どこにいる?」とあいつにメッセージを送ると、いるかどうかもわからないままに、足取りはベーカリーへ向かっていた。 商店街。 あいつとの思い出が街並みに染み付いていた。 一つ手前の串カツ屋では部活帰りによくコロッケを奢ってやった。反対側にある駄菓子屋の名物婆さんには小学生の頃、よく2人でイタズラを仕掛けた。呉服屋の前にある電柱に自転車で二人乗りしてぶつかって、怪我をした。 今じゃ良い思い出ばかりだが、もう二度と出来ない事ばかりでもあった。この思い出を辛い記憶にしたくなくて、俺は駆け足になっていた。 十字路を越えた先にベーカリーが見えた。店の前には引越し業者のトラックが停まっていて、トラックの前にはあいつの両親のフードカーが列になって置かれていた。転校の噂は本当らしい。 店からあいつの両親が出て来て、二件挟んだクリーニング屋の軒先の辺りで立っている俺に気が付いた。 2人揃って俺に頭を下げると、フードカーに乗ってしまった。 むしろ謝らなきゃならないのはこっちだ。見守ってほしい、片想いでいてほしいと言われたのに、約束を破ってあいつをあんな目に遭わせてしまった。俺が悪い。 俺はあいつの両親の背中へ向けて深々と頭を下げた。 すると、ポケットから電話が鳴った。 あいつからだった。 「……今、どこにいるんだ?」 「ここにいるよ」 店先から、あいつが現れた。酸素ボンベをカートに乗せて、鼻には管を通していた。 「ペット飼ったんだ。ボンベて言うの。可愛いでしょ?」 「笑えないよ。俺のせいだ」 「大丈夫。来週には取れる予定だから。一ノ瀬のせいじゃない」と、あいつはいつもの笑顔を遠くから俺に向けた。 「知ってるのか?」俺は病気の事を尋ねた。 「うん。知ってる。ごめんね。一ノ瀬に辛い思い、ずっとさせてたね」 あいつの正直な気持ちを聞かされて、俺は何て返せばいいのか分からなかった。 引っ越し業者が最後の荷物を荷台に積んだ。 出発の時間だった。 「なぁ、泉」 3年ぶりにあいつの名前を呼んて問い掛けた。 「何?」 急に泉の声が少し小さくなった。言葉を待っているかのような、少しの優しさと切なさが混じった声。俺の心はキュッと締め付けられる。 「片想いじゃないんだ。俺も、泉の事が、好きなんだ」
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