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「人が人を信用しようとするとき、人は何を基準にその人を信用しようと思う?」
壮一郎の問いはとても抽象的なものだった。
何だろう。亜紀は考えてみた。
信用する人は誠実な人でなければならないと思う。嘘や偽りばかりを述べる人に信頼を持つことはない。だとしたら答えは。
「誠実さかな?」
「そうだ。それとポジティブでなければならない」
想いは伝染する。ポジティブな人にはポジティブな人が、ネガティブな人にはネガティブな人が集まってくる。
幸せを願わない人間は絶対に幸せになることはない。
あらゆる情報を統合するシステム。そこには色々な人の想いが集まってくる。彼女はその集まってくる情報をポジティブなものとネガティブなものに分別しようと考えた。
それは別にネガティブな情報を不要なものとして捉えるわけではない。ネガティブな情報ももちろん重要。ネガティブな情報はポジティブな情報を生み出すために必要なものとして考えた。
できないことに工夫を凝らしてできるようにしてきたのが人類の歴史。
だからネガティブな情報が出たときは、それをポジティブなものに変えられるように情報提供ができるようなシステムを、彼女は考えた。
それが彼女なりの管理社会の礎を築いてしまうことへの罪滅ぼしだった。
「そんなことってできるの?」
「コンピュータはデータの大小を判断できるが、物事の善悪は判断できない。それに物事の善悪自体も時代によって変化していく。
奴隷制度が当たり前だった時代があった。強い国が弱い国を征服し統治するのが善とされていた時代だってあった。
効率的に物事を進めるのは素晴らしいことかもしれない。だけどそれによって削ぎ落とされたものは本当に不要なものなのだろうか。それによって今の人類は心の余裕を無くし苦しんでいるのではないだろうか。
これからも人の善悪や価値観は時代によって変わっていくだろう。だから、何を善として何を悪として定義するのか。それを定義していく役割を彼女はAIや私たちに与えたんだ」
「凄い……」
亜紀は思わず呟いていた。
壮一郎はさらに続けた。
「システムの完成に必要だったのは論理的で合理的な思考を持つ現実主義者だった。彼女はリアリストとして見事に仕事をやり遂げた。
だけど、これからシステム運用に関して、世界中にシステムを売り込んでいくのに必要なのはジェラルド・リーフのような夢想家なんだろうと思う。
現実は重要だ。だけど、すぐ手前や足元のことばかりに目を奪われていては、人は遠くへ進めない。
人に夢を与えること。未来は希望に満ちあふれていると信じることが、より良い未来を作り出す。彼ならそれができるような気がする」
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