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初めてAI(Artificial Intelligence、人工知能)の存在を知ったとき、ドキドキした。
映画などのフィクションの存在だと思っていたものがPCの中で動いている。その衝撃は計り知れなかった。
コンピュータは素晴らしい。適切なメソッドを指示してやることによっていくらでも計算や分析ができる。そしてそこにAIを用いることによってコンピュータの機能を拡張させ自動化させることができる。私は夢中になってプログラム開発に取り組んだ。
しかし、あっけなく壁にぶつかってしまった。
AIは学習機能が重要になる。なるべくたくさんのデータを学習させることによってAIの内部のメモリーストックは増えてゆき、その判断力は向上する。
ビッグデータが必要だった。つまり、それを有する企業と連携する必要があった。
「母さんは何で私を産んだの?」
「何だい、突然」
AI開発で行き詰まったある日のこと。私は夕飯の支度をする母の背中に向かって尋ねてみたことがあった。
母は私からの問いかけにちょっとびっくりしているようだった。
「私なんて産まなかった方が、もっと楽に生活ができて、お金だって貯めることができたでしょう?」
「リッちゃんは頭良いのに、そういうところがまだまだね」
「どういうこと?」
「お金なんてたくさんあっても幸せにはなれないんだよ」
「そうかな?」
納得できなかった。お金がなければ必要な物さえ買うことができないじゃないか。
すると母は私のそばに寄ってきて、両手で私の頬に触れながら、次のように言った。
「でもリッちゃんがいれば私は幸せになれる」
「私がいることで?」
「そう。リッちゃんも大人になれば、いつかそんなふうに思えるようになるよ」
父や母は昔ながらの人間だった。非効率的とでもいうのだろうか。自分から苦労を背負い込もうとするところがあった。
だから私が代わりに稼いで楽をさせてあげればいい。その時はそんなふうに考えたものだった。
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