合理主義者の気まぐれ

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「今日はちょっと新しい遊びをしましょう」  私が提案すると、亜紀は途端に目を輝かせた。 「どんなあそびなの?」 「亜紀は十までの数字を言えるようになったでしょう? だから二人で交代に数字を言っていくの」 「うん」 「それで十を言った方が負け」 「ん?」 「数字は一つだけ言っても良いし、三つまで言っても良いの」 「なるほど、いいよ」  亜紀は笑顔だった。  こうして数かぞえゲームが始まった。 「じゃあ、お母さんからね。……一」 「二」 「三、四、五」 「六、七」 「八、九」 「えっ、十」  亜紀の負けだった。  私は微笑んだ。 「亜紀の負けね」 「じゃあ、こんどはわたしからね。……一、二、三」 「四、五」 「六、七、八」 「九」 「十。……えっ、またまけちゃった」 「お母さんの勝ちね」 「もういっかい、もういっかいやろ」 「仕方ないわね」  しかし、三回、四回、五回と繰り返しても法則を理解していない亜紀に勝ち目はなかった。 「またまけちゃった」  不思議そうに考えこんでいる亜紀を見て笑いが隠せなくなった私は、仕方ないので種明かしをすることにした。 「いい? 十を言ったら負けということは九を言わなければならないの」 「うん。わかるよ」 「そして九を言うためには、そこから遡って五を言わなければならないの」 「うん」 「そして五を言うためには一を言わなければならないの」 「えっ、じゃあ」 「そう。自分が先になった時は一だけを言って、次の番では五で止める。  自分が後になったときは、とにかく五を言うチャンスがあるかどうかで勝負は決まるの」  つまり法則を知っている人が先に一だけ言って止めた場合、絶対に勝てないゲームだった。 「ひどーい」 「ふふっ、こういう法則を考えていくのがお母さんの仕事なんですよー」 「へぇー。じゃあ、もういっかいやろ。……一」 「ニ、三」 「四、五」 「六、七」 「八、九」 「十」 「やったー」  亜紀は両手を上げて喜んだ。
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