片親同士

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 久美ちゃんはててなし子。お父さんがいなくてお母さんが水商売をしていることで差別を受ける。ママさん方が久美ちゃんのお母さんのことを悪し様に言うし、片親の子はどうのこうのと偏見の目で見るから、それが子供たちに伝染してしまい、子供たちからも差別の対象となるのだ。本来、気の毒に思うべきことなのに全くこの世は理不尽で不条理だ。  なので久美ちゃんは保育園で保育士以外の皆から冷たい視線を受け、仲間外れにされ、友達が出来ない。  そんな可哀想な久美ちゃんに園児の誰も救いの手を差し伸べようとはしないのだ。  けれども転園して来た慎太君だけは違った。この子は久美ちゃんとは逆にお父さんがいるけど、お母さんがいなくてバスの送り迎えは他の家庭と違ってお父さんの役だから徒でさえ余所者なのに他の子に変に思われ差別される、だけど久美ちゃんは同情したものか差別しないから慎太君は久美ちゃんに親近感を持ったのだ。  それで二人は友達になろうと自然と好意的な笑顔になって接近し、その甲斐あってお互いに初めて出来た友達になり、親以外では唯一の頼れる者になり、絆は深まるばかりで将来、恋に発展するのは間違いないと思われる程だった。その証拠に二人が手を繋いで歩いている姿は正に小さな恋人同士だ。  また慎太君は男らしくて久美ちゃんが、「お前の母さんお水!」なぞと皆にからかわれていると、「このー!」と叫びながら皆に向かって突進して行き、皆を蹴散らし、久美ちゃんを助けるのだ。なので久美ちゃんにとってこんな頼もしい子はいない。  それなのに慎太君はお父さんが転勤族なので久美ちゃんと仲良くなって一年も経たない内に引っ越すことになってしまった。人生に於いて別れというのは最大の哀しみの一つだが、久美ちゃんも初めて、その大きな哀しみを迎えようとしている。  そうとも知らずに久美ちゃんは慎太君と保育園でいつものようにママさん方の冷たい視線を時折、浴びながら遊んでいた。やがて慎太君に悲しい目で引っ越しのことを聞かされた久美ちゃんは、その可愛らしい瞳をオニキスのように潤ませて大粒の涙を流し出し、思い切り泣いて泣いて泣きまくった。嗚呼、なんと悲しいことか、慎太君も堰を切ったように泣き出した。二人のお陰で親しくなった久美ちゃんのお母さんと慎太君のお父さんもそれを見て貰い泣きした。そして久美ちゃんのお母さんも慎太君のお父さんも我が子がまた独りぼっちになるのを鬼胎したので久美ちゃんと慎太君を友達のままでいさせようとお互いのパソコンを使ってオンラインのビデオ通話で繋がれるようにした。  その結果、慎太君一家が引っ越した後も久美ちゃんと慎太君だけでなく久美ちゃんのお母さんと慎太君のお父さんも仲を深め、再婚することになり、久美ちゃんと慎太君は義理の兄妹になった。二人にとってこんな心強いことはない。  全く久美ちゃんと慎太君は名作「禁じられた遊び」に登場するボーレットとミシェルみたいに仲良しだけど、彼らみたいに離れ離れにならなくて良かったね。その上、将来、結婚することになれば尚のこと良いね。
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