愛したい女

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愛したい女

「ずっと前から好きでした。付き合ってください。」 「...。ありがとう。よろしくお願いします。」 彼のことはあまり知らなかったけど、なんとなく私は彼と付き合ってみようかなと思った。 だから彼の大きい手に自分の手を重ねた。 「ほんとに?」 そう言って、彼はびっくりした顔をしていた。 あまり話したことがなかった私が、なんで付き合おうと思ったのか不思議に思ったのだろう。 私は自分の曖昧な気持ちを悟られないよう 「うん。」と可愛らしく言い、うなづいた。 あれから1年程経つ。彼は私がどんなワガママを言っても、ヒステリックになっても、 一途に私を愛してくれるから、私は彼なしでは生きられなくなった。 *** 私は寝る前によく眠れる効果のあるサプリメントを飲んでベッドに横になった。 彼と愛し合ったベッドで眠りにつこうとしていたが、彼の温もりを思い出し寝付けずにいた。 ピロピロピロ スマホが鳴った。 彼からの電話だった。 「来ちゃった。」 私が玄関を開けると彼がそこにいた。 彼は私の手を取り、私を抱き寄せた。 彼はいつも私をぎゅっと力強く抱きしめてくれるから、私はいつもそのまま彼の中に溶けてしまいそうになる。 翌朝、目覚めると彼はベッドにいなかった。 私はベッドから起き上がり、洗面台を見に行くと彼は歯磨きをしていた。 その時、私はまずいものを見つけてしまった。 あの人が使ったバスタオルが物干し竿にかかったままだった。察しがいいあなたは、気づいているんじゃないかと思って私は焦った。 彼が洗面台から出てきた時、私は彼から不自然に目を逸らしてしまった。彼は私の様子が変なのを察した。 「僕なにか気に触ることしたかい?なんかあるなら言って欲しい。」 あなたは私がいつもと違う表情をしていると、いつも自分に非がある言い方で優しく接してくれる。 だから私は、 「ううん。そんなことない。いつも通りだよ。」 と言って彼を優しく抱きしめた。 でもどうしてもあのバスタオルを早く片付けたかった。 私が飲み物がないから買いに行くと彼に告げたら、きっと彼は代わりに買いに行ってくれると思った。私は、その隙にバスタオルをしまおうと思い、買い物に行くそぶりをした。 そしたら彼はなぜか私の腕を掴んでベッドルームに連れて行った。 彼は私にまたがり、私の耳元で囁いた。 「ねぇ、他の男にもこんなことされてるの?」 私は、やっぱり気づいていたんだと 心臓がバクバクした。 でもその後彼は、私のことが本当に好きだと告げただけだった。 *** その翌日、 「あの人は死んだ。」 私は、彼が殺したのだと確信した。 ある日、鑑識の同僚だったあの人は、1年2ヶ月前に世田谷で起きた女性殺人事件の犯人が、あなただと言ってきた。決定的な証拠がないから今も未解決になっていると。そして危ないから別れろと言ってきた。あの人は、いつも私の無事を案じてくれていた。 私は、あなたを使って口説いてくるなんて卑怯だと思っていた。だからあの人が死んだことなど、私はどうでも良かった。あの人は死んで当然だったのよ。外づらだけいい顔した悪魔だった。 あなたが突然家に来た前日、あの人があなたが犯人である理由を話したい。と言ってきたからどんな立証か聞いておくべきだとおもって部屋に上げてしまった。否応なしにあの人は私を押し倒してきた。バラされたくなければ言うことを聞いた方がいいと私は悟った。 私はね、あなたなしでは生きていけないの。だからあなたが逮捕されるなんてことは、私がさせない。 あなたは警視庁の鑑識だから、人を殺した後の始末は自分でうまくやれると思った。あなたが私と付き合う前に殺した女性の時みたいに。 私は事件当日から捜査に協力しているフリをして本当に証拠になるものが発見されなかったか極秘に調べた。それでも翌日昼には、上層部はあなたを疑いだした。もちろん私も捜査からは完全に外された。でも、あなたの歯ブラシと髪の毛を提供しろと言われたの。 私は歯ブラシは新しいものを、髪の毛は自分のものを用意し、バッグにいれた。上司に渡す前に職場でわざとカバンを大きく開けてあなたに見えるように置いたわ。 いつも使ってるものとは歯ブラシの色が違ったから、あなたは、私があなたをかばっていることに気づいてくれると思ってた。あなたを愛していることが伝わると思った。あなたが私と付き合う前に殺した女性の事件も、捜査を撹乱させるため、私がここ半年くらいで調書を少しずつ改ざんしていったのよ。 だけど、あなたなしでは生きていけない私でも、あれだけは許せなかった。 なぜ私が浮気したと疑ったの? あなたにとって私はそんな軽薄な女なの? あんな男を私が愛していると思ったの? だから、どれだけ私があなたを愛しているかあなたに伝えたくて、私はあなたにされるがまま殺されることにした。 *** あの日、あなたが「今夜会おうよ。」と言ってきた時から、私を殺しにくることは分かってた。だから私は殺される日の昼にあなたの部屋にいって、あなたがいつも寝る前に飲んでいるサプリメントに毒入りのサプリを仕込んでおいた。 鑑識だもの。いろんな薬剤は手に入るわ。 たしかあと2錠しかなかったから、私が死んだその日か次の日にはあなたとこちらの世界で会える。 早く私のことを力強くぎゅっと抱きしめて。 そしたら私はあなたの中に溶けこんであなたを愛しつづける。 もうどこに行くにも一緒だね。
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