2.マエストロのヒエラルキー

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2.マエストロのヒエラルキー

 だが俺が付き合うのは "清掃" のみで、それ以外の部分は免除してもらっている。  なぜなら、音に驚いて駆け下りてきているために、俺は朝飯も食ってない。  店内を清掃し、テーブルにクロスを掛けてまわった辺りで、毎朝ロードワークに出ている敬一クンが帰ってくる。  敬一クンが戻ったのを合図に、俺はペントハウスに向かってシノさんを起こし、敬一クンとシノさんと俺の三人で朝食を取る。  食事が終わると敬一クンは講義がある日は学校へ行き、俺は開店時間の10時に階下へと向かい、シノさんは気が向けば一緒に来るが、向かなきゃペントハウスで好きに過ごしている。  今日は講義のない敬一クンもいた所為か、シノさんも一緒になって階下へと降りてきた。  といっても、一階に到着した途端にいそいそとタブレットを手に、アナログレコードの試聴コーナーに置かれているソファに陣取ってしまったから、ペントハウスでゴロゴロしてるのとあまり差はなさそうだけど。 「なあ、レン。店の開店時間、11時にしねェ? 飲食店って、フツーは11時開店だし、レコードなんてどーせネットの注文以外で、客なんて来ないしさぁ」 「どうせとか言わないでくれる? てか、ココ、シノさんの店だよねぇ?」 「うむ。働き者の従業員がいると、助かるなぁ!」 「そーいうのなの!?」 「ケイちゃーん、セイちゃーん、店の開始時間、11時にしちゃっていいよねェ!」  俺のコメントを無視して、シノさんはそこでコーヒーサーバーのセッティングをしている白砂サンと、白砂サンの仕事の様子を興味深げに見ていた敬一クンに問うた。 「店の経営方針の決定権は兄さんにあるので、兄さんがその(かた)が良いと思うならそうします」  敬一クンは即座に同意を示したが。 「マエストロは今、飲食店の平均的な開店時間と言ったが。それはつまり、中古レコード店に付属するカフェだったのが、カフェに中古レコード店が付属した店に変わると言う意味かね?」  白砂サンからも同意が得られると思いこんで、タブレットでゲームを始めていたシノさんは、手を止めて顔をあげる。 「それ、なんか違うン?」 「非常に」 「どの辺りが?」  首を傾げるシノさんに、白砂サンはきっちりとサーバーの稼働を確かめてから、わざわざシノさんの(そば)に歩み寄ってきた。 「中古レコードを扱うことがメインの店であれば、同じ雇われ店長と言っても、多聞君のほうが立場が強い。だが、メインがカフェになった場合、それは逆転される」  白砂サンの発言に、俺はビックリしてしまった。  だが、シノさんも驚き顔になっていたので、同じようにビックリしたのだろう。 「最終決定権は俺だよね?」 「それは当然だ。だが、マエストロは店舗に常駐していないので、現場の些細な案件は私と多聞君とで相談して決めていることが多い。商店街から配られたポスターを、どの壁にどのように貼るかの判断などがそれだ。現在、その判定は多聞君にして貰っている」 「そうだったのっ?」  全然意識してなかった…というよりは、むしろ各種の資格を持っていて、俺より有能な白砂サンの(ほう)が "偉い" と思っていたので、向こうが俺を "上" に見てるなんて、微塵も…想像すらしてなかった。  が、でもそう言われれば確かに白砂サンは、そういうことをいちいち俺に相談にきていた。 「もちろん、当然そうすべきなので、そうしていた。なので、そういった上下関係の事案は、マエストロにはっきりと明確に決めておいてもらわねば、くだらぬ諍いの要因になる」 「俺は白砂サンとモメるつもり無いよ? ポスターなんて、好きに貼ってもらって構わないし…」 「もちろん多聞君と諍うつもりなど、私にも無い。だが従業員が増えた場合、そこが明確にされていないと些末な行き違いや思い込み、勘ぐりなどで諍いが起こる可能性がある」 「ですが現状、海老坂と天宮にヘルプをしてもらっても、正規の時給すら支払えていない状況です。齟齬が出る見知らぬ他人を雇い入れる余裕なんて、ありませんよ?」
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