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プロローグ
僕は貝である。
貝は海の底にいる、川の底にいるものもいる。
川の底は静かだ。
時折魚が忙しなく通ったり、流れが荒れて慌ただしくなることもあるが、何も無いよく晴れた日はただ静かなのだ。
海の底はさらに静かだ。
場所によっては太陽すら当たらない。
魚が通ることも流れが荒れることもない。
何時いかなる時も本当の静寂が周りを包む。
昔は川の底にいた僕も今は海の底にいる。
本当に静かなこの場所は少し寂しいが居心地は悪くない。
暗くて呼吸がしずらい時もあるがここだと誰も僕を見ないし、気付くことも無い。
たまにこちらを見るものもいるけど閉じてしまえば変わらない。
こんなことを考える僕は人として死んでいるのだろう。
人は誰かと話し、触れ合い、そして繋がっていく生物だ。
僕は違う。
話すことも触れ合うことも無い何の繋がりもないただの生物。
いやもういっそ人の形をした貝という名の屍なのだろう。
それでいい、僕はそれでいいんだ。
誰とも接しなければ、関わらなければ、無関心で居続ければ、僕は貝になれる。
僕は海の底で永遠に貝であり続けるのだ。
それが貝に許された全てであり、唯一無二の理なのだ。
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