第1章

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第1章

     4時間目を終えるチャイムが鳴り、クラスは喧騒に包まれる。  あるものは第二校舎の食堂で売られる限定パンを買いに、あるものは仲の良いもの達と共にくだらない話をしながら第二校舎にいる噂の先輩を見に、またあるものは何も用はないがこちらの校舎にいるよりはマシと思って、せわしなくドカドカと教室を出ていく。  すべての音が遠ざかっていくのを聞いて僕は顔を上げる。寝ていた訳ではない、疲れて寝ているフリをして誰とも関わらないようにしているのだ。  イジメられているわけではない、これがいつもなのだ。  やれ高校生デビューだとかやれリア充だとかを言って焦ったり悶々としたりして日々を楽しくドンチャンやっていくのだろう。  だが僕にはできない、いやこれだと可能性が残るような言い方をしているな、無理である。不可能である。才能がない。まだ足りない気がするがこれぐらいしか言えないのだから所詮その程度の絶望しか受けてない。………なんか話が暗いな。この中からまともな答えを選ぼう。  そう、才能がないのだ。僕には才能がない、何もない。こんな人間が誰かと共に生きて生活することすらおこがましい。  どうせ上手くはいかない、決まっている。このことは誰も教えてくれない、というか知らない。気づいた自分は運がいい、運がいいんだ。  「そうやってネガキャンしてるといつまで経っても前に進まないぞ」    顔を上げるとそこには図体がデカい男が椅子をギシギシさせながらこちらを面白そうに見ていた。  「本当に見てて飽きないな、ネガティブからネガティブに繋げるなんて最早個性だぞ?」  「余計なお世話だ、新」  厚木新(あつぎあらた)、僕の友人を自称する変人である。まあ僕も自分のことを貝と言っているからあまり違いはないだろう。    入学式の時に誰の視界にも入らないようにしていた僕を見つけて、なんか面白いそうだから友達になろう!と声をかけてきた。それ以降、こちらが顔を上げるたびに何食わぬ顔で前の席に座っているのだ。煩わしい。  「………それより行かなくていいのか?今日は確かベニス・モッツアレラが売店に出る日だろ?」  「あーそういえばそうだったな。でもなんかどうでもよくなっちまって」  「へぇ?」  「だってさ、進。あと一週間後にはこの校舎に行けなくなっちまうんだぜ?たかだか数か月の付き合いでも恩義や礼儀があるってもんだろう」  新の言う通り、僕たちがいる教室があるこの旧校舎の寿命はあと一週間である。この校舎の北側には新校舎である第二校舎がある。そちらは2,3年の教室に加えて食堂などの教室も完備されており、無いのは旧校舎にある一年の教室のみである。  これに関しては学校側の問題である。旧校舎は前々から老朽化で雨漏り、水道の故障、蛍光灯の点滅の悪さなどの問題が発生していた。  そこでこの高校、早春学園(はじむがくえん)の理事長は持ち前の権力を利用して急遽新校舎である第二校舎を建設。2,3年をこちらに移すことから始めたのが去年の話らしい。そして何とか一年以外の教室まで入れることが出来たのだが、一年の三クラス分のスペースがギリギリ確保できていないという根本的なミスに気が付いたのが入学式当日という噂があったりなかったり。  そんなわけで第二校舎の隣に仮校舎もとい急造プレハブ校舎を建設したのが3週間前。  だが旧校舎を取り壊すという話が決まると一人の男が手を挙げた。うちの担任である。今年で60歳定年になるおじさん先生で教師人生の締めくくりとして最後まであそこで授業をさせてほしいと提案をした。  返答に困った理事長含むほかの先生は彼に様々な妥協案を出した、その中でうちの担任が選んだのがプレハブ校舎が建設されてから一か月後に校舎を立ち入り禁止にするというものだった。  
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