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「だから、さ。別にベニスの方は来週でも買えるわけだし」
新は立ち上がって扉の方に歩いていく。
「あと一週間だけのこことの余生……って言うのはなんか変だが、楽しまなきゃな」
「フン、粋だな」
深い意味はない。新は『粋』という言葉が好きなのだ。こんな風に訳知り顔で如何にも風情を出している空気の相手にはこういうノリで返すと意外にも会話も広がらずに済む。不思議だ。
「へっ、わかってんじゃねぇか………」
ほらね、予想通り。これがポジティブ論理というものだろうか?単純というか、わかりやすいというか。……理解したくもないな。
それよりも新が扉から出ていこうと状況を考えるべきだ。もうコイツとは今日一日話す量を超えた、つまりこれ以降は話さなくてもいい!
「……おまえ、今かなり失礼なこと思ってない?」
「アイドントシンクソー」
ふん、と鼻をならして新は教室を出て行った。さて、寝ようかと思い顔を伏せて数秒しないうちに、
「あ、思い出したぞ」
と思ったけどまた戻ってきた、鬱陶しい……。
「この校舎ってお化けが出るみたいだぞ」
は?という間抜けな声が出た。お化けだって?そんなよくある通説を誰が信じるんだ、と顔を伏せたまま舌打ちする。僕らは高校生、社会人一歩手前の人間がそんなものを信じてどうなるっていうんだ?オカルト雑誌の記者みたいにありもしない非現実をあたかも現実に起きたかのように書いたものを読んで何が楽しい?全部嘘っぱちだろうが、信じて金が手に入るのは宗教の教祖かギャンブル依存の誰かだ。そんなものを信じる意味すら感じられない。
「へぇーおもしろそーだなー」
「お前、絶対思ってないだろ」
なぜだ、ハリウッドも驚くレベルの声を出したのになぜ信じてもらえない。伏せていたからか、伏せなければいけたのか、いや伏せていても音だからあまり変わらないはず。じゃあ伏せずに起きて言ってみよう。せーの。
「へぇーおもしろそーだなー(ドヤッ)」
教室の入り口には誰もいなかった。遠くからゆっくりと騒がしい音がこだましている。僕はゆっくりと窓の外を見る。開かれた窓からは冷たさが入り混じった風が僕の体に向かって吹いている。
「あと少ししたら冬か………」
季節は秋、部活動や昼休みに叫ぶ声から若干ハリがなくなるこの季節。僕は少し煮えた腹を抱えつつ、夢の世界に逃げ込んだ。
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