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恋する気持ちとは裏腹に、ふたりが共有できる時間は多くなかった。 学校では軽く挨拶をするくらいで、会話のチャンスは思ったほどないのだ。学校帰りにファーストフードやコンビニで話す時間もたかが知れている。他の友達との時間だっておろそかにできない。 そんな日々がしばらく続いた後、ミサがある秘策を持ってきた。 「こんばんわー」 ミサはウルフカットの黒髪に紫のカラーが入ったバリバリロックスタイルでサトルに手を振った。ライダースジャケットのトゲトゲがきらりと光る。 「どーも!」 レスラーパンツにリングシューズ、プロレスのマスクをかぶった上半身裸のサトルが右手を上げてそれに応えた。 『つながれ! アニマルタウン オンライン』 どうぶつのキャラクターが住む町に人間であるプレーヤーが訪れて気ままな暮らしを楽しむ。こんなゲームが子供から大人まで空前の大ブームとなっていた。プレーヤーが住む家の模様替えをしたり、服を着替えて、現実とは異なるライフスタイルを満喫するのだ。 このゲームの中でミサはパンクロッカーの姿に、サトルはプロレスラーのマスクをかぶって暮らしていた。 アニマルタウンはオンラインゲームである。それぞれがゲーム機をネットにつなげれば、自分の部屋にいながらどうぶつの町で会うことができてしまうのだ。 ふたりが会うのはもっぱら夜であった。1日の用事をさっさと済ませ、風呂に入って歯も磨いたら、あとは好きなだけ一緒にいられる。 「あー、オレ中間テストマジヤバかったわ〜」 「なんかテスト返されたとき震えてたよね」 「そ、そうだ、海を見にいこう!」 「・・・」 プロレスラーのサトルとパンクロッカーのミサはゲームの中では二頭身の可愛いキャラクターの姿になっている。ふたりは指のないまん丸な手と手をピタリとくっつけて、どうぶつたちが寝静まった夜の町をゆっくりと歩いていた。 橋を渡り、森を抜けて、海の見える丘へ上がると、遠くから静かな波音が聞こえる。どうぶつの町のはずれにあるお気に入りの場所だ。 ここで眠くなるまで他愛もない会話をするだけ。それで十分幸せだった。
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