4.父の拾い物

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 母はため息をつきながら洗濯物をはたく。 「そんなんもろて喜ぶ娘なんかおらんて言うたんやけど、渡すて聞かんから」 「かなこに似合うやろ?」 「似合うで、新品やったらな」  母は苦笑いをしてベランダに出た。父の拾い癖に散々苦労させられ、怒る気力もないのだ。 「これ、誰かの落としものやろ?」 「そうやろな」 「誰が落としたんやろ」 「さあなあ」 「いつから落ちてたんかな」 「そうなあ」  だめだ、のれんに腕押し。父にとって落ちていた物は誰のものでもない。元の所有者には興味がないらしい。私は仕方なく胸に当ててみた。母についてベランダに出ていた長男がかけてくる。 「ままーなにそれ?」 「おじいちゃんがくれてん。似合う?」 「まま、かわいー」  長男が抱きついてきたのであわててネックレスを上げた。次男も触らせろとばかりにしがみついてくる。 「うーん、ありがとう」 「なんのなんの」  父はご満悦で煙草のケースを取り出した。「おじいちゃん、たばこはそとー」と長男に言われて腰を上げる。吸う前から咳き込んでいるのに一生禁煙はしないつもりだな。若い頃は一日に一ケース半吸っていた。最近は吸う本数が少なくて済んでいると自慢げに言っていたが、どっちにしろ早死にするわと思っていると母が戻ってきた。 「かなこ、無理に受け取らんでええで。誰が触ったかもわからんのに」 「いやーうーん、子供らおるし洗ってもええかな」  父はベランダに出ながら「好きにしぃや」と言った。背中の向こうで煙がのぼり、長男が「くさいー」と掃き出し窓を閉める。  持ち主の方、ごめんなさい。とりあえずきれいにしますと思いながら蛇口をひねった。錆びた部分から黒い金属が見えている。本物の銀じゃないよなあ。百円ショップでも売ってそうとは口が裂けても言えない。  ざっと拭いて乾かし、悩んだ末に押しピンで壁に吊り下げた。
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