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夕食の時間になっても二人は出てこなかった。長男がグミを食べようとするのを阻止して、私はまたドアをノックする。
「おーい、食べるよー」
私たちは姉弟なのだから母親のように世話を焼きたくはない。なぜ二十七の弟を何度も呼ばないといけないのか。
「あのさー私らもう食べるけど」
ノックの音を強くするとものすごく不機嫌な顔で弟が出てきた。後ろでまた彼女さんが小さくなっている。
弟はダイニングに入ると無言で弁当と菓子パンを回収し、部屋に戻ろうとした。おい待て、彼女さんの分はどうするんや。ていうかなんか言うことないんか。私は弟の背中に向かって言う。
「私やなくて透くんが買うてきてくれてん。お礼くらい言いや」
「どーも」
夫の顔も見ずに言い捨てた。またしても閉められそうになったドアに体をはさんで弟を見上げる。
「ありがとうくらい言えんのか」
「はあ?」
弟は冷淡な目で私を見下ろした。
「仕事もせんやつが偉そうな口きくなや。透くんも所詮、雇われやろ。自分の力で稼げるようになってから物言えや」
頭が真っ白になった。私が働いていないのは幼児二人の育児と仕事を両立する自信がなかったからだ。自分で選んだ道なのだから好きに言うといい。そのあとはなんだ、夫まで侮辱したのか。
今日は父親の葬儀じゃないのか。夫は二日も仕事を休んで私たち家族を支え、夕食も買ってきてくれた。その人にそんなことを言うのか。私は何か間違ったことを言ったのか――
「何を言うんやおまえは……透くんに謝れ!」
「はあ? 意味わからんし。負け犬の遠吠えか」
なんだこいつ――目の前にいる高慢な態度の男は本当に私の弟なのか。
「謝れて言うてるやろ!」
私が怒り狂いながら弟につかみかかると、葬儀場から母が戻ってきた。疲れ果てた顔で「何事や」と目を丸くする。
「どないしたんや、かなこ」
「こいつ、葬儀もまともに出んかったくせに……絶対許さん!」
「こんなときまで姉弟ケンカせんといてよ」
「こんなやつ弟とちゃう! さっさと出ていけ!」
「言われんでも帰るわ」
吐き捨てるように言うと、玄関に置いていたトランクを開けて荷物を詰め込み始めた。
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