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翌月、新品のばかでかいトランクを引っ提げて弟は自宅にやってきた。自宅に上がってまず手を洗い、線香をつけて父と母の遺影に手を合わせた。遺品整理の際に引き取った愛猫と私たち家族にもお土産を用意していて、ささいなことひとつひとつに心底驚いてしまった。
子供のまま大人になった弟は息子たちにものすごくウケた。格闘ゲームをやらせれば尋常じゃなく強いし、アクションゲームでは息子たちが見たこともないような裏技のオンパレードだ。相変わらずマジックも絵を描くのも好きなようで、下手くそなマジックをやっては息子たちにすぐ種がばれ、次男の似顔絵や長男がリクエストしたイラストを真剣な表情で描き残していった。
帰りは雨が降っていた。偉そうなブランドものの傘をさす弟と、駅までの道のりを並んで歩く。
「来れてよかったわ」
「そやな、息子らも喜んでたし」
「でっかい家に住んでてびっくりしたわ」
「この辺は土地が安いんや。地元やと無理やで」
「それでも……まあ、がんばったいうことやな!」
弟は吹っ切れたような顔で言うと雨空を見上げた。遺品整理の最中に見つけた写真の、昔懐かしい笑顔だ。私が大学生のときにアルバイトをしていたレストランに三人で食べに来てくれて、サンタの恰好をした私と四人で写真を撮った。もう一枚は私の結婚式のときの写真だ。レストランのときは父の顔が半分隠れて、結婚式のときは弟の顔が半分隠れていた。
どちらも母が真ん中にいて、みんな笑っていた。私が当たり前の日常を記憶していなかっただけで、家族の時間はもっとあったはずだ。
「もうすぐクリスマスやなー。かなこさんちはサンタとかやんの?」
「うんまあ、一応な。内緒で枕元に置いてるわ」
「サンタが親やて気づくのもそろそろやな」
オレもびびったもんなー、と弟は言った。じつは弟が知る二年前、私はサンタの正体を知ってしまった。サンタにもらったプレゼントが壊れていると母に電子機器でできたおもちゃを見せると「お父さんに修理頼み」と言った。母が「あっしまった」という顔をしたその瞬間、小学六年だった私は父がサンタだったと悟った。
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