9.弟の落とし物

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 サンタは私を愛用の黒いバンに乗せ、地元から少し離れたところにあるおもちゃ屋につれていってくれた。プレゼントは初期不良だったのでメーカーから取り寄せます、という現実的なやり取りを見て、不思議な心地がした。  サンタからのプレゼントは私からの熱烈なラブレターにより小学校一年から贈られるようになった。それから一度も欠かさず、近くのショッピングセンターにあるおもちゃ屋で見たことのないプレゼントを見るたび、弟と二人で「絶対ほんまもんのサンタやー!」と喜んだ。  お父さんサンタは帰りの車で「孝介には言わんといてや」と言った。私が小学校六年までもらったから、孝介にも同じようにしてやりたいと母が言ったらしい。  その後二年、孝介のみのプレゼントは続いた。中学生になった私は当然黙っていたし、孝介には六年の終わりに種明かしがされた。  孝介は高校生の時に自動二輪の免許を取ったけれど、教習所代だって派手な真っ赤なバイクだって母のパート代だけでどうにかできるものじゃない。父が工面していたのは間違いないと気づいたのは、最近になってからだ。  私たちはいつもないものねだりで、父と母が与えてくれいたことに気付いていないだけだった。 「オレは一人寂しいクリスマスかなー」 「まあしゃあないね」 「自業自得やからね」 「私がプレゼント贈ったろか」 「いらんわ。サンタ業務忙しいやろ」  弟はにっかりと笑うと「ここでええよ」と言って振り返った。 「ほなまたな」 「体に気をつけて。次は上達したマジック見せたって」 「あれ以上はようせんわ」  そう言うと弟は振り返らずに雨の降る夜道を歩いていった。大きくなった後ろ姿を見ながら納骨には来るかもしれないけれど、自宅に来ることは二度とないだろうなと思った。  でもきっとそれでいい。見知らぬ土地の、不慣れな家族なんて居心地が悪いだけだ。弟は自分の好きな道を歩いていけばいい。  冷たい雨が降る。明日にはきっと上がって晴れ間も出る。コンクリートの道に浮かぶ波紋を見ながら、私は家族の明かりが灯る場所へ帰っていった。
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