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「つけへんのか?」
「たいちゃんが引っ張ったら危ないやろ?」
「せやな」
父は長男を膝に乗せ、プロ野球中継をつけた。長男はすぐさま下りて「おもしろくなーい」と特撮ヒーローの録画に変える。
「ゆうちゃん、野球はおもろいで? ゆうちゃんのママは野球好きやったで」
「まま、そうなん?」
「まあソフトボールやるくらいには……」
「お父さんが無理やりルール教えたんやろ」
母がまた苦笑いをする。手早く洗濯物を畳んで今度はおもちゃを片づけ始める。
「かなこはえらいわ。黙ってお父さんの話聞いて。野球とゴルフと麻雀に興味のある娘がどこにおんの」
父は聞かないふりをしている。「まあ好きやったで」とフォローを入れると「孝介は全く興味なかったしなあ。お父さん、かなこに感謝しなさい」と弟の名前を出した。父は黙ってチャンネルを変える。
弟は野球に全く興味を示さず、バレーボール部に所属していた。二人とも絵を描くのは好きだったけれど、描き方に口出しされるのが嫌だったらしく、描いたものは一切見せていなかった。
「かなこ、今夜は何が食べたい?」
「トンカツかな。ひとりやと揚げ物できんし」
「よっしゃ任せとき。買い物行こか、ゆうちゃん」
「いくー」と長男は支度を始めたが、父は動こうとしなかった。
「お父さん、行かんの?」
「疲れてるらしいわ。ほっとき」
最近は日雇いで警備の仕事に行っているらしく、父はかなり日焼けをしていた。長年、古本屋の奥に座り、それすらさぼって喫茶店にとんずらしていた人が、定年を超えてから警備の仕事などしたら体にこたえるだろう。
ここは実家か、と思ったけれど夫もいないことだし留守番してもらうか。
「じゃあ行ってきます」
玄関で声を上げると「ん」と小さな返事が返ってきた。実家から何十キロも離れた自宅なのに両親がいるだけで懐かしく温かな空気が流れていた。
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