1.家族の記憶

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1.家族の記憶

 父と弟が最後に話したのはいつだったのだろう。  私の記憶では弟が高校生だった時、テレビでマジックショーが流行っていて、マジックセットを買ってきた弟が父に下手くそなマジックを見せていた。手先が器用な父は「ちゃうで、これはこうや」と珍しく弟に食いついて、いつもなら嫌そうな顔しか見せない弟が楽しそうに笑っていた。  こたつの上に愛用の徳利と酒のあて、母は忙しそうに食器を下げながら「うまいやんかー」と父を褒めていた。大学生だった私は膝に猫を乗せて見ていた。  上機嫌の父が日本酒の香りをさせながら何度もマジックを披露した。それが家族四人の、最後の記憶だ。
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