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私がブラックコーヒーを初めて飲んだのは、高校卒業後に入社した会社の先輩に憧れたからだ。
新人の私にでもやさしい笑顔をくれ、ミスをして叱られた私に自動販売機の甘いカフェオレをプレゼントしてくれた先輩。
そんな先輩に少しでも近づきたくて、大人ぶって自動販売機で買ったブラックコーヒーは苦い割に薄っぺらい味がしてなんで先輩はこんなのをいつも飲んでいるんだろう、と少し幻滅した。
新人時代の苦くも甘い思い出を思い出しながら私は濃く入れたコーヒーに胃の健康を考えて牛乳を少量。
夕飯後は必ずこれを飲む。
甘いカフェオレなんてもう飲めない。
「おかーさんコーヒー?」
「そうよ」
私は本を読みながら、娘の問いに答えた。
子供向けのテレビを見ていた娘は「ふうん」と答えた後、手が私のコーヒーに伸びる。
「夜、眠れなくなるわよ」
「ちょっとだけだもん」
近頃の小学生は本当にませている。
やれクラスの男子と、女子となど娘の口から出てくる昼ドラもビックリな話をきいて何度卒倒しそうになったか。
娘もませたい年頃なのか学年が上がった頃から普段私が飲むコーヒーを飲みたがるようになった。
「うぅ…苦い…」
…口に合うかどうかはまた別の話だが。
「ほら言ったじゃない」
「もう一口、あと1口」
「お父さんじゃないんだから」
私は娘からコーヒーが入っているコップを取り上げた。
「おこちゃまにはまだ早いのよ」
膨れた顔をする娘の頬を私はつついた。
ーーーーーーーーーーーーーー
「このコーヒーね、エチオピアの中でも5つしかない農園の豆を使っていてね、程よい苦味、邪魔をしない酸味、後味にはフルーティーさがあってね…」
娘の講釈を聞き流しながら私はコーヒーを1口、口に入れた。
確かに私がいつも飲んでいるインスタントコーヒーより良いことはわかるが、それが程よい苦味、邪魔しない酸味、後味のフルーティーさのせいなのかこれがいい値段の豆を使用したからなのか分からない。
「現地の人はミルクと砂糖をいれるらしいけど、私からすればとんでもない! このコクは濃く入れたブラックじゃないと…」
私はいちごのショートケーキを口に入れた。
甘すぎるケーキにこの濃いコーヒーが合うのはよくわかる。
「…お母さん、本当に甘党だよねぇ。私、そんな甘いケーキ食べれない」
「コーヒーと甘いケーキは合うのよ」
「ふぅん」
娘はそう言ってショコラケーキを1口私のショートケーキの隣に置き、私のショートケーキを1口食べる。
食べた途端、娘はコーヒーを飲んだ。
「うぅーん、甘いのは苦手…」
「ねぇ、家帰ったら牛乳温めようか、甘い砂糖も入れて」
「は、なんで? 私甘いの苦手って言ったじゃん」
「そうだね、ごめん」
本当に近頃の子供はませている。
私は笑いを堪えながら、誤魔化すためにコーヒーをのんだ。
『小学生のおこちゃまには早いのよ。はいこれ』
『ホットミルクだ! 砂糖入れていい?』
『もう、ちゃんと歯を磨くのよ』
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