美味しい食事

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美味しい食事

 空が冷蔵庫の前で何やら唸っている。何かを悩んでいるようだ。  今日の夕飯のメニューか?  いや、今日の夕飯の当番は俺だ。空が悩む必要は無い。 「空、どうした?」 「あ……」  声を掛けると、空は照れくさそうに頬を掻いた。 「敦史さん、ちょっと意見を欲しいんですけど」 「うん? どうした?」 「ナマってしない方がいいと思いますか?」  俺はむせるのをぐっと耐えた。  生……ナマでしないって……いや、良く考えろ。  変な意味での「ナマ」では無いだろう。  だが……。  俺は空の頬を軽くつねった。 「空」 「うひゃっ!」 「言葉を省略して言うのは止めなさい」 「うにゅ!」  つねるのをやめると、空は「そうですね……」と少し反省したのか眉を下げる。 「実は、今、猛烈に卵かけご飯が食べたいんです」 「卵かけご飯?」 「でも、今日はちょっと暑いから……生卵は避けた方が良いのかなって」 「なるほど」  あれ、美味いもんな。  たまに食べたくなる気持ちは分かる。  そうか……今日はエアコンをつけるくらい暑いから、ちょっと心配だ。 「……止めた方が良いと思う」 「やっぱり、そうですよね……明日は仕事だし、ナマでお腹壊したら大変ですよね」 「……そうだな」 「新鮮なやつだったら平気かな……出したてのやつとか」  出したてではなく、産みたてと言いなさい!  俺は手を伸ばして空を腕の中に閉じ込めた。 「敦史さん?」 「……夕飯は、オムライスなんかどうだ? 火を通すから卵を食べても平気だ」 「そうですね……っ!?」  俺は空の太ももを服の上から撫でる。  出来るだけ、熱を伝えるように。 「あ、敦史さん……まだ、昼間……」 「俺も食べたくなってきた」 「な、何を……」 「ふふ」  戸惑う空のくちびるを奪えば、それは簡単にとろけてしまう。  綺麗だ。可愛い。  たくさん、愛したい。 「ベッドが良い? それともソファー?」 「……ベッド」  赤くなりながらそう言う空のことを、早く味わいたい。  こういう休日も悪くないな。   「敦史さん……」 「ん」  甘えるように首を伸ばす空のくちびるを、深く味わう。  夕飯は少し、遅くなってしまいそうだ。
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