イルミネーション

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イルミネーション

「……ふーっ」 「空、鼻が赤い」 「えっ!?」 「ふふ。冗談だ」 「もう! 敦史さん!」 「悪い、悪い」  テイクアウトしたホットコーヒーを飲みながら、僕たちはカップルだらけの街を歩く。生えている木という木は、電飾でぴかぴか光って幻想的だ。見ているだけで、ちょっと心がほわってするのは、きっとクリスマスの魔法なんだろうな。 「……ふーっ」 「そのコーヒー、そんなに熱いか?」 「あ……いえ、なんかこういうカップだと、ふーふーしたくなりませんか?」 「カップ?」 「こう……飲み口が狭いから、なんだか舌を火傷しそうで」 「ああ、確かに熱いのが一気に流れてきたら火傷しそうだもんな」  オシャレをしたカップルが横を通り過ぎる。僕たちは会社帰りだからスーツ姿でのデート。片手にはコーヒーのカップ。うん、デートにも見えないし、恋人同士にも見えないだろうな。別に、アピールしたいわけじゃないけど、そのことがちょっとだけ、心に引っ掛かる。敦史さんは……どんな気持ちなのかな。手を繋ぎたいな……とか、思っているの僕だけなのかな。  僕は、ぴかぴかの景色を眺める。綺麗。もうちょっと歩いたところに、毎年飾り付けられている公園があるんだ。そこでキスしたカップルは、ずっと一緒に居られるらしい。 「空」  敦史さんが僕の名前を呼ぶ。いつもと同じ、柔らかい声。  それと同時に、空いている方の手がふわりとあたたかくなった。僕は視線を下に落とす。大きな敦史さんの手が、僕の手を包んでいる。 「あ……」 「冷えているな」 「あ、あの……」 「皆、繋いでいるから、繋ぎたくなった」 「でも……」 「嫌か?」 「……嫌じゃないです」  ぎゅっと握り返せば、敦史さんはふっと微笑んだ。敦史さんの手も冷えている。もっと早く繋いでいれば、もっとぽかぽか出来たかな。  なんだか照れくさくて、噂の公園までは無言で歩いた。たどり着いたそこには、それはもう自分たちの世界に入っちゃってる恋人たちの姿でいっぱいだった。 「空」 「はい……っ!?」  自然な動作でキスされた。  僕は驚いて声が出せない。そんな僕に、敦史さんはいつもと変わらない様子で言う。 「これでずっと一緒。一安心だな」 「な、な……」 「嫌か?」 「……嫌じゃ、ないです」  それから数秒だけ抱きしめ合ってから、僕たちは帰ることにした。身体を冷やして風邪でも引いたら大変だからね。この続きは……たぶん、寝室で……。  僕はコーヒーを飲もうとして、やっぱり止めた。さっきの敦史さんのくちびるの感覚をまだ覚えておきたくて。  代わりに、敦史さんの名前を呼んで今度は僕からキスをした。敦史さん、ほっぺた赤いよ。自分からは平気でするのに、こういう時に照れるの、可愛い。  繋いだままの手から手へ、お互いのどきどきが伝わる。  来年も、デートしようね、敦史さん。  まるで僕たちの明るい未来を照らすかのように、イルミネーションはずっとずっと輝き続けていた。
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