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悩みごと
「……はぁ」
空が、ソファーで頬杖をついて息を吐いている。
綺麗だ。目を伏せている姿がこんなにも美しい人間に出会ったことは無い。
ずっと眺めていたいが、ここは年長者として話を訊くべきだろう。
俺は、そっと空の隣に腰掛けた。
「空、悩み事があるのか?」
「あ……いえ、そんなんじゃなくて……」
そう言って空は頬を掻いた。
なんだろう、言いにくい悩みなのだろうか。
恋人の俺よりも、もっと相談がしやすい人間が居るかもしれない。例えば……前に空の会社で出会った後輩くんとか。
力になれないのは寂しいが、空が一番話しやすい相手にアドバイスをもらうのが良いだろう。そう思い、俺は後輩くんのことを頼ってはどうか、と空に伝えた。だが。
「だ、駄目ですよ! こんなこと、あいつに相談なんかしたら、何を言われるか……!」
「そ、そんなに深刻な悩みなのか?」
「うっ……」
「空は頑張り屋さんだから抱え込んでしまうことも多いだろうが、俺でよければ手助けさせてもらえると嬉しいな」
「っ……敦史さん」
空がぎゅっと俺に抱き着いてきた。可愛い。
空の髪を撫でる俺に、空は小さな声で言った。
「笑いませんか?」
「笑わない」
「あの、ですね……つまり、その……」
「うん」
「今夜……」
空は頬を赤く染めながら、上目遣いで言葉を続ける。
「……どうやって、誘おうかなって」
「うん? 誘う?」
「だから……敦史さんのこと、どうやって……ベッドに……って」
えっ?
悩みって、そういう……?
俺は思わず笑みを零した。
途端に、クッションが俺に向かって飛んでくる。
「ちょ、空!」
「笑わないって言ったのに!」
「笑ってない。微笑んだんだ」
「同じですっ!」
真っ赤な顔をした空を捕まえて、ぎゅっと腕の中に閉じ込めた。
「最高の誘い文句だ」
「っ……」
「今夜と言わず、今からでもどうだ?」
そう訊ねれば、空は耳まで真っ赤になる。
そうして、小さな声で「うん……」と呟いた。
俺のことを考えて、悩んでくれていたなんて感動する。悩み過ぎは良く無いが、こんなにも可愛い姿なら時々見たい。そう思ってしまうのは、意地悪だろうか。
「空」
「ん……」
キスをしながら、ゆっくりと空をソファーに沈める。
悩みが消えたその表情は穏やかで色っぽい。
もっと、とねだるような熱い瞳に溶かされそうになりながら、今度は俺からも誘ってみよう、と思った休日の午後だった。
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