先生は左利き

9/15
前へ
/15ページ
次へ
 先生が、ふっと鼻で笑うと「それは言葉の綾じゃないか」と訳の分からないことを言う。言葉の綾でも何でもない、先生のでしょうに。 「はぁ、その先生、こんなクズにクズって言われるなんて、可哀想ですよ」 「詫びろ、詫びろ、詫びろ、詫びろ、大———」 「ぜーんぜん似てないです」 「え、ちょっと最後までやらせてよ」  私は呆れたように笑うと、先生が溜息を吐いてまた赤ペンで遊びだす。しなやかな動きをするその左手に、私はピアノでもやっていたのかなと、どうでもいいことを考えてしまった。 「いや、でも実際クズなのよ? 俺の言い分も聞いて?」 「先生ってピアノやってたんですか?」 「聞けよ……! やってたよ、ピアノ」  そう言いつつも、ちゃんと答えてくれる先生は優しい。私はぷっと吹き出すと、先生がムッとした顔でまた私の額にデコピンをした。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加