見えないメッセージ

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 首を傾げる私とたるとを横目に、圭貴は紙を自分の顔の前に持ってくる。それからにっと笑い、机の脇にある小さな箱から何かを取り出す。 「え、燃やすの?」  圭貴の手にはライターが握られていた。兄弟の不思議な行動に、たるとは戸惑ったように言った。私も、破ろうとしていた里見くんもさすがにここまではやらないだろうと考えてしまった。  圭貴はにやりと笑う。 「まあ見てなって。試しだよ試し」  そう言ってライターの火をつけ、手紙をその上にかざす。私たちは息をのんでそれを見つめる。  異変はすぐに見え始めた。 「ああ⋯⋯!」  何かが浮き上がってくるように、紙の一部の色が変わったのだ。 「おお!まさかの大正解」  ライターの火を消して3人で手紙をのぞき込む。 「え?」 「わぁ」 「『好きでした。今までありがとう』⋯⋯」  唖然(あぜん)とする。ラブレターだ。ラブレター以外何ものでもない。Happy Birthdayの文字の下に、シンプルで真っ直ぐな告白の言葉が浮き上がっていた。 「圭ちゃんよく分かったね」 「みかんの匂いがしてね」 「みかん?」 「うん。前に見たドラマでやってたじゃん。みかんの果汁で書く、見えない文字のトリック」 「あ!果汁のところだけ早く燃えるってやつだ!」  手紙を鼻に近づけると、焦げ臭い匂いの中で、確かに柑橘系の匂いを感じた。 「すごい、ドラマで見るような仕掛けを実際にやる人初めて見た」 「確かにな」  3人で苦笑いする。これは気づかれなくても文句は言えないと思ってしまう。 「これ、他の手紙も同じなのかな?」  発見したはいいが、浮き上がってきた文字が自分に向けられた言葉だとは、信じ難かった。 「いやいやあーちゃん、このメッセージが不特定多数に配られてたらそれこそやばいでしょ」 「うん、どう考えてもお前だけ特別だよ。あんな小さかったアリスも、とうとう告白されるようになったんだな」  わざとらしく泣くふりをする圭貴を無視し、私は間違えの可能性を考えていた。  確かにこの仕掛けはこの手紙だけだろう。他の手紙はこれのためのダミーのようだ。しかし⋯⋯ 「これ、一見同じような手紙だから、誰かのと間違えてもおかしくないよ」 「もう、私そんな自信ない子に育てた覚えはありません」 「そうだぞ、お父さんだって間違えならいいと思うけどな、男の覚悟をバカにしちゃいけねぇな」 「いつから2人は私の親になったの」  冷たくあしらう私に2人は不満そうな顔をする。
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