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「そうじゃなくて、もしかしたらこれの送り主は女の子かもしれないの」
首を傾げる2人に、亜紗美から聞いたことを話す。彼らもだんだんと間違いということに納得してきたようだった。
「てことは、千翔くんのと間違えられたのかな?」
私は頷く。同じ日に受け取った里見千翔くんと間違えられた、と考えるのが妥当だろう。彼は意外にも、よく告白されているようだったから。こういう変わった仕掛けをしないと彼の気を引くのは難しい、と考えた女子がいたとしても、おかしくはなさそうだ。
亜紗美が見た彼女が犯人なら、だが。
しかし、不審な女子が朝に下駄箱にいたということは事実だ。
「千翔って誰?」
「ほら、よく話す、陸上部の師匠」
「ああ!ラブレター破り捨てるやつな!」
私は呆れて2人を見る。たるとはどんな話し方をして、圭貴はどんな覚え方をしているのやら。事実としても、里見くんが少々不憫に思える。
「たると、明日里見くんに渡せる?」
「うーん、部活に来れば」
「え?来ないの?」
「千翔くんよくサボるんだよねぇ」
「たるとの師匠何してるの⋯⋯」
意外ではないといえば、意外ではない。今朝見た彼は、気怠そうな印象だったからだ。
しかしそもそも、たるとからは、とても足が速くすごい人と聞いていた。実際は、能力はあれどそれを持て余しているような人らしい。
「いやー師匠ほんとは何でもできてすごいのに、本気出す時の方が珍しいんだよねー」
それでモテるとはますます疑問だ。ちらりと見える顔の端正さに、皆騙されるのだろうか。
「じゃあ放課後はどこで何してるの?まさか帰宅?」
「たぶんだけど、生徒会室にいると思うんだよね」
「生徒会⋯⋯」
今日は何かと縁がある。
「なんでまたそんなところに」
「ほら、今日も一緒にいたけど、真坂くんと仲良いからさ」
「また知らない名前出てきたぁ。俺も朝高がよかったな」
それまで黙って聞いていた圭貴が、口を尖らせている。たるとはごめんごめんと軽く言う。
朝高とは、私たちが通う朝霧高校の略称だ。ちなみに圭貴は、それほど遠くないところにある桜庭高校に通っている。
「てかさ、たると、師匠が部活サボるって散々文句言ってたけど、居場所分かってるんだったら無理やり連れてけばいいじゃん」
「だって、生徒会室は入りづらいじゃん」
今度はたるとが口を尖らせた。私はたるとの気持ちが分かる気がする。しかし、ふと、今日話したクラスメイトのことを思い出す。
「亜紗美と一緒に行くのはどう?」
「だれ⋯⋯」
「それ名案!」
圭貴の声をかき消して、たるとが立ち上がった。そのままガッツポーズを決める。
「よし、明日は生徒会室に乗り込んで、千翔くんをぎゃふんと言わせるよ」
彼女は天気に関わらず活動的な子だった。
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