目撃証言

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目撃証言

 鬱々とした雨の日に物思いにふけりがちになるのは、私だけだろうか。太陽が見えないというだけで、1日の気分がこうも変わる。梅雨に入り、ここ数週間はずっとこの調子だ。  そんな中で、今日は気分を変える兆しが見られた。バースデーカードのことではない。たるとが、放課後家へ来ないかと誘ってきたのだ。  彼女はその名前のおかげなのか、お菓子作りが得意だった。家に行くと必ず美味しい手作り菓子が食べられるので、私は毎回それを楽しみにしていた。今回ももちろん期待していい様子だ。  放課後に楽しみができたからか、それとも本当は少し気になっていたのか、いつもより活動的な気分になっていた。バースデーカードについて、クラスメイトに聞いてみようと思ったのだ。 「亜紗美」  休み時間、1人でぼーっとしていた坂倉(さかくら)亜紗美(あさみ)に声をかける。彼女は、入学当初から比較的よく一緒にいる子だ。  彼女は私の声に反応して、ゆっくり振り向く。その目はこちらを真っ直ぐに見ているが、顔には表情らしい表情が見えない。言葉を発する気配もない。 「噂になってる謎のバースデーカードのこと知ってる?」  私はスカートのポケットから、例の手紙を取り出して亜紗美に見せる。彼女は数秒それを見つめた後、ボブの髪を揺らして縦に首を振った。 「存在は」  それだけ言うと、再び口を閉ざしてこちらを見る。それ以上待っても何も言わないことは、数ヶ月の付き合いで分かっていた。  冷たい対応に見えるが、彼女の場合はこれが普通だ。言葉を恐れるような人だった。だから彼女の態度は冷たく見られがちだが、彼女自身は冷たい人ではないと私は思っている。  亜紗美は、どうしてと問うような視線を向けてくる。 「今朝、私の下駄箱に入ってたの。知らない人からもらうって、なんだか奇妙な感じがして」  でもなにも知らないならいいや、と続けようとしてやめる。亜紗美は目線を逸らして、何かを考えているようだった。彼女は言葉を発することに対して慎重だ。彼女とうまく会話をするコツは、とにかく辛抱強く待つことだった。彼女の前の椅子に座って様子を伺う。  やがて、亜紗美は目線をこちらに戻して口を開いた。 「朝、女の子を見た」 「うん」 「髪の短い⋯⋯。昇降口にいて」 「昇降口」  彼女が時間をかけて話した内容はこうだ。今日の朝早い時間に、先生に用事があって職員室へ向かっていた。そのとき1年3組の、つまり私たちの下駄箱のあたりに、髪の短い女の子がじっと立っていた。背中しか見えなかったが、少なくとも同じクラスの人ではなかったという。  最初は話のつながりが見えなかった。亜紗美がメッセージカードを指差して、もしかしたら、と言ったのでピンとくる。確かに、怪しい。手紙を入れている瞬間を見たわけではないので、なんともいえないが⋯⋯ 「その子、荷物持ってた?」
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