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ふと思いついたことを聞いてみる。
「手は、見えなくて」
亜紗美は自分の胸の前で手を組んでみせた。おそらく、後ろから見たらそのような位置に手があったのだろう。でも多分、と彼女は首を振る。高校生が登下校で持つバッグは、大抵、リュックサックか肩にかけるスクールバッグだ。いずれもそれなりの大きさがある。手で前に持っていたとしたら、後ろからでも見えるだろう。
「そっか、ありがとう」
亜紗美が見た女子は、荷物を教室かどこかに置いてから、わざわざ下駄箱に行ったということになる。ますます怪しい。
はっきりとした証拠はないが、恐らくその人が送り主だろう。バースデーカードを送っているのが女子だと思うと、少し可愛いなと思えてくるから不思議だ。想像でも犯人像が見えれば、得体の知れないものではなくなる。
「朱音」
もう一度お礼を言って立ち上がろうとすると、名前を呼ばれた。何か言いたそうな目で亜紗美が見ている。座り直して彼女が話し出すのを待ってみる。
「青鳥先輩が色々知ってるかも」
「青鳥先輩⋯⋯生徒会の?」
生徒会はつい先日選挙が行われていた。1年生は朝会った真坂京介と、目の前にいる亜紗美のみ。人数が少ないのは、異例のことではないらしい。一定の投票数を獲得しなければ役員にはなれないのだ。2年生は前年度からの持ち越しになる。会長、副会長は前会長の指名らしい。今回の会長は確か、真田秀という人だった気がする。
そして例の青鳥先輩とは、2年の生徒会役員の1人、青鳥満のことだ。生徒会の発表は全て放送で行われたが、彼の名は印象的だったのでよく覚えていた。
「聞いてくる?」
亜紗美が首を傾げて言うが、私は慌てて手を振る。
「ううん、大丈夫。本格的に送り主探したいとかじゃないから」
それに、言葉が苦手な彼女に仲介をお願いするのは酷な気がする。
「そういえばさ、亜紗美が生徒会って意外だった」
亜紗美はほんの少しだけ口角を上げ、頷いた。生徒会は前に立つイメージだったが、亜紗美の話に聞くところ、そうでもないらしい。むしろ見えないところでの仕事が多いようだ。彼女も最近は毎日、放課後に生徒会室へ行っているようだった。
「仕事忙しそうだよね。大変?」
「いや⋯⋯楽しいかも」
亜紗美がそう言うのも意外だ。クラスでの様子を見ていれば分かるが、口下手な彼女は人と馴染みにくい。
「みんないい人」
「それ、集団では一番大事だよ」
彼女はまた口角を少しだけ上げた。
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