見えないメッセージ

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見えないメッセージ

「ハッピーバースデー!」  パンッ  放課後佐藤家に行くと、おじゃましますと言う間もなく、クラッカーの破裂音に出迎えられた。  驚いて首を(すく)めていると、ははっと笑う声が聞こえてくる。頭にはりついた紙テープをつまみながら、目の前の、たるとと同じ顔を見上げる。 「久しぶり!」 「圭貴(けいき)、久しぶり。相変わらず元気そうだね」  クラッカーを持った彼は、たるとの双子の兄の佐藤圭貴(けいき)。子犬のような人懐こい笑みも、たるとそっくりだ。そして2人の母のネーミングセンスには尊敬する。  佐藤家とは昔家が隣で、私と私の兄と双子の4人でよく遊んだものだ。小学校低学年の時に私たちが引っ越して以来、圭貴には会っていなかった。しかしたると同様、彼も昔と変わっていない。懐かしさが込み上げてくる。 「ささ上がって上がって。お菓子たくさん作ってあるから!」  甘い匂いに誘われるように、中へ入る。たるとの両親は仕事でいないようだった。 「アリス、その……」  圭貴が後ろから小さな声で躊躇(ためら)うように声をかけてきた。何事にも自信満々な彼にこういう態度を取らせる要因は、ひとつしかない。そんなところも変わらない幼馴染みに、私は安心させるように笑った。 「大丈夫だよ、分かってる。お腹空いてるし」  たるとはお菓子をたくさん作るが、なぜか自分では食べない。結果、大量のお菓子を私と圭貴で消費することになる。少なく作ればいいのに、という野暮なことは言わない。たるとが可愛い圭貴は、彼女を悲しませることはしたくないのだ。そして、それは私も同じだった。 「わぁ、美味しそう」  机に並べられた色とりどりのスイーツは、美術展にでも出せそうだ。彼女は本当に女子力が高い。 「へへへ。あーちゃんのために張り切っちゃったもんね」  私が男だったら彼女に惚れていた。  3人で椅子に座り、手を合わせる。黄金(こがね)色のクッキーに手を伸ばしかけて、あれ、と思う。 「お菓子、作ってあったの?」 「誕生日、ほんとはちゃんと覚えてたもんね」  たるとは自慢げに胸をはった。 「誰だか分からない人に先越されちゃったのが、気に食わなかったの」 「誰だか分からない人って?」 「待って、その話はあとでするから。先にこっち!」 「そうだった」  たるとと圭貴は、机の下からごそごそと何かを取り出す。 「「誕生日おめでとう!」」  心から祝福するようなその言葉と共に、可愛らしい2つの小包が差し出される。  そっくりな満面の笑みにはっとさせられる。
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