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 利用者もいなくなった閉館後の図書館に、堪えるような悩ましい声が微かに響く。おそらく話し声でもあれば埋もれてしまうくらい微かなもの。けれど人のない静寂の場ではやけに耳に付く、そんな甘さも含む声だった。 「矢野、くんっ!」  館長用の執務室、その机を背に体をどうにか支えながら、私は熱を帯びる声を必死に飲み込もうとしている。明かりを落とし月明かりだけが差し込む窓ガラスには蕩けそうな自身の顔が僅かに映っている。  そしてその前には膝立ちになり下半身に顔を押しつける若い青年の姿があった。 「それで抵抗してるつもりっすか、館長」 「だが、こんな……っ! んぅ!」  剥き出しになった下半身、その熱くなる欲望へと青年が唇で触れ、舌を這わせる。40歳にもなって数える程の経験しかない私にとって、こんな事は非日常すぎる。まさか職場で、自分よりも十以上も年下の部下に口淫を受けようとは。 「あぁ! あっ、待って、こんな……ふぅっ」 「抵抗してもダメですよ。コレ、こんなにしたまま帰れないでしょ。全部口で受けるんで、出していいですよ」 「そういう訳には! そもそも君が、っ……どうして」  戸惑うのは当然だった。この関係が始まって1ヶ月程、ダメだと思いながらも押し切られて毎回こんな感じになる。そもそもお付き合いをしている関係じゃないのに体だけなんて、こんなにいけない事はない。  けれど彼はいつも強引に押しかけ、キスで蕩けさせ、とても自然に体に触れる。流されて、達しそうになって毎回焦って止めにかかる。  大きな口がいとも簡単に興奮した男性器を飲み込む。温かく柔らかな口内で唾液を絡められ上下されて、腰に重く甘い痺れが走る。思わず彼の髪を掴んで引き剥がそうとするが、ブルブル震えてびくともしない。 「往生際が悪いっすよ、館長」  睨み上げるような瞳がジッと見つめ、喉奥まで飲み込まれて同時に玉を揉み込まれる。その痺れるような快楽に、私は勝てなかった。 「っ! んぅぅ!」  堪えのきかない快楽に負けた。我慢を重ねた後の射精は癖になるくらい気持ちがいい。一気に頭の天辺まで抜けた甘い刺激に蕩け、力が抜けて崩れ落ちてしまう。机の引出し部分を背にし、呆けた私ににじり寄った彼が胸に手を置き、愛しげに目を細めてキスをしてくる。  絡まる舌の感触にまた背がゾクゾクと粟立ち、甘えたような声が自然と漏れてしまう。貪られ、それを受け入れて、私はこの関係を終わらせられないでいる。
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