僕はどうしてあんなに怒っていたのだろう

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僕は、部屋から出なくなった。 壊れたスマホをじっとみつめて暮らしている。 自分が世界の中心いると思っていた日々が恋しい。 着メロがひっきりなしに聞こえてきたあの時の日々が懐かしい。 戻ってはいけないと知りつつも戻りたいと思う。 しかし、目の前のスマホからメロディは聞こえない。 僕は、ごろごろと布団の中で過ごした。 あれから何日が過ぎたのだろうか・・・ 突然、ドドドドというバイブレーターの音が聞こえた。 僕の胸が飛び跳ねた。 胸の鼓動が破裂しそうだ。 点滅している!  スマホの照明が点滅している! 壊れているスマホが何かを着信している! ありえない! 僕は、しばらく机の上で動き回るスマホを見ていた。 スマホは、突然動き出した時と同じように、突然止まった。 部屋中の空気が一瞬にして凍ったような静けさだ。 僕は、恐る恐るスマホに手を伸ばした。 画面が光っている。 そして着信のマークが・・・! 僕の頭は、パニックになっている。 壊れたはずのスマホに着信?!  幽霊でもみているようだ。 それでも、僕の胸は高鳴っている。 久しぶりのスマホの感触だ。 「お母さんです」の言葉。 しばらく僕はその言葉が理解できなかった。 母が、ドアをノックした。 「メール届いた?」 「あ、ああ。 届いた・・・けど、どうして?」 「入っていい?」 僕が返事する間もなく母が嬉しそうに入ってきた。 「よかったねえ。着信のバイブレーターの音が下まで響いてきたのよ」 「・・・・」 「私の友達が言ってたのよ。ぬれた携帯が突然使えるようになることがあるって。今のじゃどうだかわからないけどね」 「・・・・」 「だから、私、ずうっと、メール送ってたのよ。もしかしたら、カズ君のスマホもそうなのかもしれないって」 「治ったってこと?」 「と、思うよ。よかったねえ」 濡れたスマホの中が乾いたってことなのだろうか・・・ そんなことってあるのだろうか。 母は、すごく嬉しそうで満足気な顔をしている。 「他の言葉にすればよかったね。もっと気の利いた言葉にすればよかったわ」 母は、そう言いながら僕の部屋を出て行った。 僕は、スマホを抱きしめた。 そして母の言葉をもう一度見直した。「お母さんです」と文字が並んでいる。 僕は、小声で読んだ。「お母さんです」 こんなに嬉しい言葉は初めてだ。 こんなに感動したラインは初めてだ。 そして、僕のスマホにはまたラインが届くようになった。 「元気? 久しぶりだねえ」 「よっ、噂で聞いたけど、横道行ってたんだって? その感想聞かせてくれよ」 みんな昔の友達だった。 僕の日常が戻ってきた。 僕の心が戻ってきた。                                   (了) 
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