34人が本棚に入れています
本棚に追加
♡プロローグ♡
広い舞台。艶を放つグランドピアノと美しい青年に、スポットライトが当たっている。
儚い余韻を残して、青年は鍵盤から指を離した。ホールが割れんばかりの拍手に包まれる。
客席では、ヒカリが彼を見守っている。
青年が立ち上がってマイクを握ると、会場が水を打ったように鎮まった。すらりとした体躯に、シルバー・グレイのタキシードが良く似合う。彼が美しい所作で礼をすると、亜麻色の髪がふわりと揺れた。うっとりするような甘い容貌に、そこかしこから堪え切れないように溜め息が漏れる。
青年は、濡れたように艶やかな唇から柔らかな美声を発した。
「次の曲は、僕が愛するただひとりの女性に捧げます。曲名は『光』……。聴いてください」
青年は、客席のある一点だけを見つめる。
「イヤぁ!」
「誰なのよ、愛する人って!」
「きいぃっ!」
会場中の女が悲鳴を上げる。
ヒカリだけが、潤んだ瞳で彼を見つめていた。
(なんて素敵なの。私だけのために……)
青年は目を閉じて、鍵盤に伸びやかな指を落とした──。
最初のコメントを投稿しよう!