ライバルお嬢、満を持して登場

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ライバルお嬢、満を持して登場

 「ねえ、鈴木さん。この曲は?」  学校へ向かうリムジンの中でも、奏斗(かなと)様のCDを聴くヒカリお嬢様である。  春平に追い返された厚の車が横をすり抜け、別の道に入って行った。  「えーっと……」  さすがに、万能執事のように即答とはいかない。  鈴木さんは護衛の一人だ。七三分けの、温和を絵に描いたような人である。最近は、この鈴木さんとカゲが護衛についている。  「ハンガリー狂詩曲第2番、ですね」  「そう。ありがと」  ヒカリは、愛おしそうにCDジャケットを撫でた。シンプルな黒いシャツで、少年のような笑みを浮かべてピアノを弾く奏斗様が写っている。斜め横からアップで撮られたものだ。  「お前。学校行く前によくこんなもん聴けるな」  カゲが暗い顔で言った。胸の中に黒雲が広がるかのように気分が重くなり、同時に催してくる。  「何をクネクネしてるのよ? 気持ち悪いわね」  「う、うっせえ。曲名も分からねえくせに何が奏斗様だ」  カゲが落ち着きなく吐き捨てた時。前方に、お伽話に出てきそうな城が姿を現した。桃色の三角屋根に真っ白な外壁。この城こそ、ヒカリが通う『蓮乃宮(はすのみや)女学院 高等部』。この城だけで高等部である。    守衛の敬礼に迎えられ、整えられた庭園を悠々と進めば、モネの『睡蓮』さながらの美しい池が心を和ませる。車寄せには続々と高級車が連なり、お嬢様たちが護衛を伴って降りていく。  ヒカリたちも、開け放たれた大きな扉からエントランスへ入った。一般的な学校で言えば、昇降口みたいなものであろうか。ともかく、2年生専用の棟へと歩き出したその時。甲高い声が響いた。  「あら。胡桃沢ヒカリさんじゃありませんこと? 相変わらず地味! ですのね」      
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